このページの要点
- 入力データ(プロンプト・アップロードしたファイル)を学習やサービス改善に使うかどうかを明記し、個人情報が含まれる場合の利用目的・第三者提供の整理とそろえる。
- 生成物の権利は、規約で利用者に帰属させる・利用を許諾するなどと定めても、著作物に当たらない生成物には著作権そのものが生じない場合がある。権利の「帰属」と「利用条件」を書き分ける。
- 外部のAIモデル・APIを使うなら、その提供元の規約・データの扱い・所在国を確認し、自社の規約・プライバシーポリシーに反映する。
- 出力の正確性を保証しない旨は書けても、消費者との契約で全部免責は無効。医療・法律・金融などの判断を、出力だけを根拠に行わないよう定める。
他社の規約をコピーした場合に起きる五つの間違い
- 生成物の権利が自己矛盾している:「生成物の権利は利用者に移転します」と書きながら、別の条で商用利用や再配布を禁止している。しかも、AIが自動で生成したものには著作権が生じない場合があり、「移転する」と書いても空振りすることがあります。
- 入力データが外部のAIに渡ることが書かれていない:どの外部サービスと連携しているか、入力データがそこに渡ること、学習に使われるかどうかの三点が抜けています。
- 「いつでも自由に規約を変更できる」:変更の条件と周知の手順が必要です(規約の変更のページ)。
- 「一切責任を負わない」の連発:個人の利用者との契約では、全部免責は無効です(利用規約の作り方のページ)。
- 条項の継ぎ足しで参照番号がずれる:AI機能を後から追加するたびに条項を足し、参照が壊れています。
入力データ:学習に使うかどうかを明記する
利用者が入力したプロンプトやアップロードしたファイルを、サービスの改善やAIの学習に使うかどうかは、利用者にとって重要な判断材料です。使わないなら、使わないと明言することが強い安心材料になります。使うなら、許諾の範囲として具体的に書きます。クラウド型のSaaSの規約で、利用者のデータを「明示的な事前の同意がない限り、AIモデルの学習に利用しない」と書いた例もあります。
条文の書き方の例 (入力データの取扱い)
- 当社は、利用者が本サービスに入力し、又はアップロードしたデータ(以下「入力データ」といいます。)を、本サービスの提供のために必要な範囲で利用します。
- 当社は、本サービスの提供のため、入力データを別表に定める外部のAIサービスの提供者に送信します。当社は、当該提供者との契約又は当該提供者の定める条件により、送信した入力データが当該提供者のAIモデルの学習に利用されない設定で利用します。
- 当社は、利用者の明示的な同意がある場合を除き、入力データを当社のAIモデルの学習に利用しません。
- 入力データに個人情報が含まれる場合の取扱いは、当社のプライバシーポリシーの定めによります。
外部のAIサービスの提供者が、不正利用の監視のために一定期間データを保存する場合は、その旨も書きます。
外部のAIサービスに個人情報が含まれる入力を送るなら、個人情報保護法の整理も必要です。提供元の規約で学習に使われないことが確認できる場合は委託として整理できることがありますが、提供元が外国の法人であれば、外国にある第三者への提供の論点があります(第三者提供と海外のクラウドのページ)。個人情報保護委員会は、生成AIサービスについて注意喚起を行い(令和5年6月2日)、個人情報を含むプロンプトを入力する事業者には利用目的の範囲内かの確認などを、AIサービスを提供する事業者には要配慮個人情報を本人の同意なく取得しないことなどを求めています。「機微な情報や第三者の個人情報の入力はお控えください」という注意書きはお願いにとどまるので、規約の側でも、入力データについて利用者が適法な権限を持つこと、第三者の権利や守秘義務を侵害しないことを定めます。
生成物の権利:「帰属」と「利用条件」を分ける
AIが生成した文章や画像には、人の創作的な寄与がなければ著作物として保護されず、著作権そのものが生じない場合があります。そのため、規約で「生成物の著作権は利用者に帰属する」と書いても、権利が生じない生成物については意味を持ちません。大切なのは、権利の帰属と、生成物をどう使ってよいかという利用条件を分けて書くことです。
事務所の改訂例:生成物の権利(依頼者原案・テンプレートからの改訂)
| 帰属と禁止の矛盾 | |
|---|---|
| 改訂前生成物に関する一切の権利は、利用者に移転します。(別の条)利用者は、生成物を商用目的で利用し、又は第三者に再配布してはなりません。 | 改訂後生成物について著作権その他の権利が生じる場合、その権利は、生成の時点で利用者に帰属します。当社は、生成物の利用について、本規約に定めるほか制限を設けません。ただし、当社は、本サービスの提供及び改善に必要な範囲で生成物を利用できるものとします。 |
| 権利の流れを一本にし、禁止する利用と渡す権利を一か所で突き合わせました。 | |
| 権利が生じない場合 | |
| 改訂前(定めなし) | 改訂後生成物に著作権が生じない場合であっても、利用者は、本規約の範囲で生成物を自由に利用できます。 |
| 著作権が生じない生成物の扱いを定めておかないと、利用者が何をしてよいのかが分かりません。 | |
開発や業務の委託でAIを使う場合も同じです。事務所が作成した、業務の自動化を外部のAIエンジニアに委託する契約書では、プロンプト、ワークフロー、AIエージェントの設定まで成果物に含めて発注者に帰属させ、AIの出力に著作権が生じない場合でも、発注者が自由に利用でき、受託者は権利を行使しないことを定めました。
出力の正確性と、責任の書き方
AIの出力について、正確性、完全性、有用性、特定の目的への適合性を保証しないと書くのは出発点にすぎません。AIが行動の提案や優先順位の判断をするなど、利用者の意思決定に影響するサービスであれば、さらに次の点まで書きます。
- AIの出力は参考情報であり、利用者が内容を確認して最終的な判断をすること
- 出力が最新の情報を反映している保証はないこと
- 同じ入力でも出力が変わることがあり、モデルの変更で出力の傾向が変わること
- 出力に第三者の知的財産権を侵害する内容が含まれないとは保証できないこと
- 医療、法律、金融など、専門家の判断が必要な場面で、出力だけを根拠に判断しないこと
ただし、個人の利用者との契約では、これらの免責も消費者契約法の範囲内で書く必要があります。出力を利用した結果の損害について運営者が責任を負わないと書く場合も、規約全体の損害賠償の範囲と上限の条に接続させます。
事業者向けのAI SaaSのレビューでは、「必要に応じて利用者が確認する」とされていた確認の義務を、法的な効果を生じる文書や重要な取引に関する文書に使う場合には人による確認を必須とする形に改め、「AIが生成した内容に誤りが含まれること自体は不具合に当たらない」と定義しました。確認を任意にしておくと、免責が働く条件を立証しにくくなるからです。
外部のAIモデルに依存する部分
多くのAIサービスは、外部の事業者のモデルやAPIを使っています。その事業者の規約の変更、料金の改定、モデルの提供終了、障害は、運営者には止められません。規約では、外部のAIサービスの仕様変更・停止によってサービスの内容が変わることがあること、その場合の利用者への通知、外部サービスを変更する場合にプライバシーポリシーを改訂して周知又は同意の取得を行うことを定めます。
事業者向けのSaaSで、顧客が自分のAPIキーを登録して外部のAIを使う機能がある場合は、責任の切り分けが特に重要です。事務所のレビューでは、次の四点を号を分けて明記しました。
- その外部のAI事業者は、サービスの提供者の再委託先ではないこと
- 外国にある第三者への提供に当たるかどうかを判断する主体は、顧客であること
- 学習に使われない旨の保証の対象外であること
- 提供者の責任は、データの送信までの範囲であること
事業者向けのAI SaaSで決めておくこと
| 論点 | 決めること |
|---|---|
| 顧客データの利用範囲 | 利用状況のデータ(提供者が利用できる)と、顧客データの中身(顧客の承諾が必要)を分ける。統計情報の作成を許諾の目的に含める |
| 顧客の資料を検索して回答する機能 | 社内の非公開の資料は、著作権法47条の5の軽微利用の対象外(公表された著作物等に限られる)。複製・解析・表示の許諾を契約で置く |
| 禁止事項 | リバースエンジニアリング、競合するAIの開発への利用、第三者への再提供、性能評価の結果の公表など |
| AIの利用量 | 定額制なら、通常の利用の範囲(1日の回数の上限など)を料金表で定める |
| 漏えい時の通知 | 「速やかに」ではなく、時間を区切り、起算点を「知った時又は合理的な疑いを認めた時」とする |
| 賠償の上限 | 通常の上限と、顧客データの漏えい・目的外利用の場合の上限を二段階にする |
情報解析のための著作物の利用は、著作権法30条の4で認められる場合がありますが、それは著作権法上の話で、契約で定めた利用の制限を打ち消すものではありません。顧客データを他の顧客向けのモデルの学習に使えるかどうかは、契約で明確に合意しておく必要があります。
APIを提供する場合の規約
自社のサービスの機能をAPIとして外部の開発者に提供する場合は、通常の利用規約に加えて、次の点を定めます。
- APIキーの発行と管理、第三者への貸与の禁止、キーの漏えい時の責任
- 利用の上限(呼び出しの回数、データ量)と、超えた場合の制限・課金
- API経由で取得したデータの利用範囲、保存の期間、再配布の禁止
- APIの仕様変更・廃止の予告期間と、互換性を保証しない範囲
- API利用者のサービスの利用者に対する責任は、API利用者が負うこと
- API経由で個人データをやり取りする場合の、委託・第三者提供の整理
創作物を扱うサービスと、AIへの入力
制作物を納品する事業者の規約に、納品物を「生成AIに入力することを禁止する」という条項を置くことがあります。「学習目的でなければよい」と読まれない書き方にする一方で、目的を問わず入力を一律に禁止すると、画像編集アプリの自動補正や背景の除去のような日常的な機能や、「軽微な加工は可」とする別の条項と衝突し得ます。また、規約は契約した相手にしか効力が及ばず、契約前のラフや、流出した後の第三者には届きません。入力の目的を、学習、生成のための加工、解析のための読み込みなどに分けて、それぞれ書き分けるのが実務的です。制作する側がAIを使うかどうかの方針も書いておくと、依頼者の期待とのずれを防げます。
公開前のチェック:AI・APIの利用規約
- 連携している外部のAIサービスと、入力データが送られることを書いた
- 入力データを学習に使うかどうかを明記した
- 生成物の権利の帰属と利用条件を分け、著作権が生じない場合の扱いを書いた
- 出力の性質(参考情報・変動・最新性・第三者の権利)と、利用者の最終判断を書いた
- 免責を損害賠償の条に接続し、消費者契約法の範囲に収めた
- 外部のAIサービスの変更・停止の場合の扱いを書いた
- プライバシーポリシーで、外部のAIサービスの所在国と処理地域を実装に基づいて書いた
よくあるご質問
AIが生成した文章や画像の著作権は、誰のものですか?
AIが自動で生成したもので、人の創作的な寄与がないものは、著作物として保護されず著作権が生じない場合があります。規約では、権利が生じる場合の帰属と、権利が生じない場合も含めた利用の条件を分けて定めます。
利用者の入力データをAIの学習に使ってもよいですか?
使う場合は、規約で利用の範囲を明記し、個人情報が含まれるならプライバシーポリシーの利用目的にも含めます。学習に使わないのであれば、使わないと明言することが利用者の安心につながります。外部のAIサービスに送る場合は、提供元が学習に使うかどうかも確認します。
「AIの出力の正確性は保証しません」と書けば、責任を負わずに済みますか?
出力の正確性を保証しない旨は書けますが、個人の利用者との契約では、運営者の責任を全部免除することはできません。出力の性質と利用者の最終判断を定めたうえで、損害賠償の範囲と上限の条に接続させます。
外部の生成AIのAPIを使っていることは、規約に書く必要がありますか?
入力データが外部の事業者に送られるなら、規約とプライバシーポリシーに、連携している外部サービス、送られる情報、学習に使われるかどうか、提供元の所在国を書きます。書いていないと、利用者からは知らないうちにデータが外部に渡っていると受け取られます。
社内の資料を読み込ませて回答するAIサービスで、著作権の問題はありますか?
社内の非公開の資料は、著作権法47条の5の軽微利用の対象外です。サービスの提供者が資料を複製・解析・表示することについて、顧客との契約で利用の許諾を定めておく必要があります。
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