複数のサービス・プランの利用規約をまとめる方法

提供の形が増えたサービスでは、規約を一本にまとめるか分けるかを、共通の約束の大きさで決め、形態ごとの違いは条件付きの条項で吸収します。

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ガイドラインを規約より優先させ、運営者がその内容を自由に変えられる書き方にすると、規約の変更手続を迂回することになります。

このページの要点

  • 運営者が同じで、禁止事項・責任・権利・個人情報が大半で共通なら一本にまとめられる。法人が違う、適用法令が違うなどなら分ける。中間の形として、共通規約と形態別規約の二層もある。
  • 全員に効く幹と、特定の形態にだけ効く枝を分け、枝には「会員登録を行う場合には」「当社が制作して納品する場合には」と条件を付ける。「本サービス」は総称とし、形態は別の定義語にする。
  • 同意の取り方は入口ごとに用意する(民法548条の2第1項)。責任の上限は課金の周期に結び付け、下限額を置き、故意・重過失と生命・身体を対象外にする(消費者契約法8条)。
  • 内部の運用基準は利用者向けの個別規定にしない。ガイドラインの優先は規約を具体化する範囲にとどめ、利用者に不利益な変更は規約の変更手続(民法548条の4)で行う。

最初に結論:一本にまとめられるが、「共通の幹」「形態別の枝」「下位書類の優先順位」を先に決める

結論

提供の形が複数あるサービス(利用者が自分で操作する型と運営者が代行する型、無料と有料、iOSとAndroid、個人向けと法人向けなど)でも、運営者が同じで、禁止事項・責任・権利・個人情報の扱いが大半で共通なら、利用規約は一本にまとめられます。ただし、まとめ方には順序があります。①全員に効く共通の幹と、特定の形態にだけ効く枝を分ける。②同意の取り方を、利用者の入口ごとに用意する。③責任の上限を課金の周期と結び付けて決める。④コミュニティガイドラインやヘルプ、内部の運用基準といった下位の書類が、規約とどちらを優先するかを決める。この四つを決めずに条項を足していくと、ある形態の利用者には当てはまらない条項や、互いに食い違う条項が混ざります。

サービスを育てていくと、最初に作った規約に当てはまらない利用の形が増えます。アプリで始めたサービスに、後から運営者が代わりに作業する代行の窓口を足した。無料で始めたサービスに有料プランを足した。個人向けに作ったサービスを、法人にも売ることになった。そうした場面で、「規約は形態ごとに分けるのか、一本にするのか」「ガイドラインとの関係はどうするのか」という相談が出ます。

このページでは、複数の形態を持つサービスの運営者が、規約をどう設計し、どう移行するかを説明します。1つのサービスの規約の基本的な作り方はアプリの利用規約の作り方、同意の取り方の基礎は利用規約の同意の取り方と、定型約款のルール、規約の変更の手続は利用規約の変更で扱っているので、ここでは「複数の形態をまとめる」場面に絞ります。

まとめるか、分けるか:判断の軸と、起きやすい五つの食い違い

規約を一本にするか分けるかは、サービスの数ではなく、約束の共通部分の大きさで決まります。次の表のように、軸ごとに見ていきます。

一本にまとめるか、分けるかの判断の軸

判断の軸一本にまとめやすい場合分けたほうがよい場合
運営者同じ運営者が、同じ名称・窓口で提供している運営者の法人が異なる、またはブランドごとに窓口が別
利用者の重なり同じ利用者が複数の形態を使う可能性が高い利用者層が全く重ならない(個人の消費者向けと、法人の業務用など)
共通の約束の割合禁止事項、責任、権利、個人情報、停止・終了が共通で、違いは登録・料金・成果物程度責任の上限、保存期間、解約の条件が根本的に違う
料金の形都度課金・月額・見積りなど、違いを条件付きの条項で吸収できる消費者向けの課金と、事業者向けの契約が混在し、適用される法令も違う
改定の頻度共通部分は安定していて、形態別の部分だけ頻繁に変わる形態ごとに改定の時期が大きくずれる
読みやすさ利用者が一冊で全体を把握できる一本にすると分量が膨らみ、自分に関係する部分が探せない

中間の形として、共通規約を一本置き、形態ごとの特則を「サービス別規約」として別に置く二層の構成もあります。

三つの構成の特徴

一本の規約に条件付きの枝

共通の幹+形態別の枝を同じ書面に

  • 利用者が一か所で全体を読める
  • 改定の掲載場所が一つで済む
  • 分量が多くなると、枝が探しにくい

共通規約+サービス別規約

共通規約と、形態ごとの特則を別書面に

  • 形態ごとの利用者に必要な書面だけを見せられる
  • 優先関係を書き分ける必要がある
  • 同意の取り方を二つの書面に対して作る

完全に別の規約

形態ごとに独立した書面

  • 運営者や利用者層が違うときに素直
  • 共通部分の改定を、書面の数だけ繰り返す
  • 書面間で責任や権利の扱いがずれやすい

複数の書面を並べるときは、どれがどれに優先するかを必ず規約の冒頭の条で決めます。

一本にまとめるとき、特に食い違いが出やすいのは、次の五つです。

形態が違うことで起きる食い違いと、規約での手当て

食い違い起きること規約での手当て
会員登録の有無アカウントの管理責任を無条件に書くと、登録しない利用者にも当てはまるように読める登録に関する条項の前に、「会員登録を行う場合には」と条件を置く
同意の取り方登録型は画面で同意を取れるが、登録なしの申込みは、規約を読んだ記録が残らない入口ごとに、同意の表示と記録の方法を定める
課金の形と責任上限都度払いの形態と年額払いの形態で、上限の基準になる額が変わる課金のサイクルごとに、上限の基準額と下限額を書く
成果物と権利運営者が制作して納品する形態では、成果物の権利の帰属が問題になるが、利用者が自分で作る形態では、運営者は成果物を渡さない「運営者が制作して納品する場合には」と条件を付けて、権利の条項を足す
対象となる利用者個人の消費者向けと事業者向けで、適用される法令と、有効な免責の範囲が違う利用者の区分を定義し、区分ごとに適用する条項を分ける

最後の食い違いは、特に、事業者向けと書いたサービスを、実際には個人が使う場合に問題になります。

事務所の書類では

写真と位置情報で旅行の記録を作るアプリの規約を作成・改訂したとき、無料の利用者、買い切りの有料アイテムを購入した利用者、将来のサブスクリプションの利用者という複数の利用の形があり、一本の規約の中で、データの保持期間、解約と返金、退会後に残るデータを、形態ごとに書き分けました。無料の利用者のデータを一定期間で削除するルールは、本文に定めたうえで、適用するのは別途定める日からとし、適用開始日の一定期間前までに周知することを本文と附則の両方に書いています。こうしておくと、サブスクリプションを導入する時点で規約を改定せず、適用開始日の告知だけで運用を始められます。

事業者向けと表示したクラウドサービスの規約のレビューでは、個人が開業前や副業で使う場合は消費者関連法の適用が及ぶ余地があるため、「事業者」を定義し、登録時に事業として利用することを表明させる、という整理を指摘しました。利用者の区分は、一本の規約にまとめるときの最初の設計項目です。

共通の幹と形態別の枝:規約の組み立て方

一本にまとめた規約の読みやすさは、章立てで決まります。全員に当てはまる条項を前半と後半に置き、形態に固有の条項を中ほどにまとめ、冒頭に「どの条項が誰に適用されるか」を示す条を置く構成が使えます。

章立ての例

章内容誰に適用されるか
総則適用範囲、定義、規約への同意、サービスの内容と形態、下位書類との関係全員
利用資格年齢、事業者の区分、反社会的勢力の排除全員(区分ごとの条件を含む)
会員会員登録の手続、登録の拒否、アカウントの管理、登録情報の変更会員登録を行う利用者だけ
料金形態ごとの料金の発生、支払、自動更新、解約、返金形態ごとに分けて書く
成果物と権利納品物の所有権、著作権の許諾、利用範囲、再販売の禁止運営者が制作して納品する場合だけ
利用者の義務禁止事項、正確な入力、第三者の権利の尊重全員
停止・解除・終了停止の事由と手続、退会、サービスの終了、終了後に残る条項全員
責任保証の否認、免責、責任の上限(課金サイクル別)、生命・身体の例外全員(上限の基準は形態ごと)
一般条項知的財産、個人情報、規約の変更、準拠法・管轄全員

章立てはサービスに合わせて組み替えます。大切なのは、「誰に適用される条項か」が、条文の見出しか書き出しで分かることです。

条件付きの条項の書き方には、型があります。条件は、条項の最初に一言で付けると、読む人にも、後から条項を足す運営者にも分かりやすくなります。

形態別の枝の条文例(要旨)

第○条(会員登録)

会員登録を行う場合には、本条から第○条までの定めによる。会員登録を希望する者は、当社所定の方法により登録の申込みをし、当社が承諾した時に会員となる。会員は、自己のアカウント情報を自己の責任で管理するものとする。

第○条(登録の拒否)

当社は、登録の申込みをした者が、次の各号のいずれかに該当する場合には、登録を拒否することができる。この場合、当社は、拒否の理由を開示する義務を負わない。

第○条(代行サービスの料金)

当社が利用者の依頼に基づき制作を行う場合には、料金は、個別の見積書に記載する金額とする。見積書の金額に利用者が同意した時に、当該依頼に係る契約が成立する。

第○条(成果物の権利)

当社が制作して納品する場合には、納品物の所有権は、納品の時に利用者に移転する。納品物の著作権は、当社又は正当な権利者に帰属し、当社は、利用者に対し、本サービスの目的の範囲で利用することを許諾する。

「会員登録を行う場合には」「当社が制作して納品する場合には」という書き出しが、条項の適用範囲を示します。条項ごとに、適用される利用者が誰かを確認します。

定義語の置き方にも注意が必要です。複数の形態を一本にまとめた規約では、「本サービス」を、全形態の総称として定義するのか、特定の形態だけを指すのかが曖昧になりがちです。「本サービス」は総称とし、形態ごとには「セルフ型サービス」「代行型サービス」のように別の定義語を付けます。規約の途中で、「本サービス」が、ある条では総称、別の条では一つの形態を指す、という使い方をすると、条文の解釈が分かれます。初めて使う箇所で、その場で定義する書き方が基本です。

無料プラン、ベータ期間、有料プランが混在するサービスでも、同じ問題が起きます。「有料プランが終了したら無料プランになり、データは削除されない」という条と、「契約が終了したら30日以内にデータを削除する」という条が、同じ規約にあると、「契約の終了」がいつを指すのかが定まらず、二つの条が衝突します。「本サービスの契約」「有料プラン」「無料プラン」を定義し、どの時点でどのデータがどうなるかを一覧にして確かめます。

同意の取り方を、利用者の入口ごとに用意する

規約は、利用者が契約の内容にすることに合意するか、運営者があらかじめ契約の内容とする旨を表示してはじめて、個々の条項まで契約の内容になります(民法548条の2第1項)。一本の規約でも、利用者がサービスに入る入口は複数あり、入口ごとに、表示の場所と記録の方法を用意します。

入口ごとの同意の取り方

入口同意の取り方残す記録
アカウント登録(アプリ・Web)登録画面に、規約とプライバシーポリシーへのリンクを置き、同意のチェックを入れないと進めない構成にする同意の日時、規約の版、アカウントの識別子
購入・申込み(登録なし)申込みフォームの送信ボタンの近くに、規約を契約内容とする旨とリンクを表示する送信日時、表示した規約の版、フォームの内容
見積りに基づく代行の依頼見積書または申込みの返信に、規約を契約内容とする旨と掲載場所を記載する。請求書にもURLを再掲する見積書・返信のメールの控え
アカウントを持たない閲覧者共有ページなどの閲覧に適用される条項を置き、ページに規約へのリンクを表示するページの表示内容(ログは残らないため、表示の仕方が実効性の条件)

利用者の求めがあれば、規約の内容を示す義務があります(民法548条の3)。旧版を履歴として保存しておくと、利用者がどの版に同意したかを特定できます。

入口ごとの同意の仕組みを作るとき、規約の正本の掲載場所を一か所に決めておきます。サイト上の一つのURLを正本とし、アプリの登録画面、申込みフォーム、請求書、見積書のいずれからも同じURLを指すようにします。更新が必要になったときに、その一か所を直せば、全ての入口に反映されます。入口ごとに規約のPDFを添付していると、更新のたびに古い版が残り、利用者によって適用される版が違ってしまいます。

同意の記録は、紛争になったときに、運営者が自分を守るための材料になります。ただし、記録を取ることと、同意の取り方が適切であることは別です。同意のチェックボックスが初期状態で選択済みになっている画面や、規約へのリンクが小さな文字で隠れている画面は、同意の記録が残っていても、契約の内容になったと言いにくくなります。同意を取る画面の設計を、規約の作成と一体で確認します。

責任の上限と料金の周期:形態ごとに基準を決め、全体の考え方は揃える

課金の形が分かれると、運営者が負う責任の上限をどう書くかも問題になります。上限を設けること自体は可能ですが、消費者契約法の規律があります。運営者が債務を履行しなかったときの賠償責任をすべてなくす条項は、無効になります(8条1項)。運営者に故意または重大な過失がある場合の責任を一部だけ免除する条項も無効です(同項2号)。さらに、軽過失の場合の責任の一部を免除する条項は、軽過失(重大な過失を除く過失)にだけ適用されることを条項の中で明らかにしていないと無効です(8条3項)。上限条項の中に「当社、その代表者又は使用する者の故意又は重大な過失による場合を除き」と書くのは、このためです。生命・身体の損害は、上限の対象から除きます。

課金の形ごとの上限額の書き方の例(数字は例です)

  • 年額一括払いの形態直前の12か月に利用者が支払った料金の総額。ただし、一定額(例:5万円)を下回る場合は一定額支払総額と一定額のいずれか高い額
  • 月額払いの形態直前の請求に係る1か月分の料金(税抜)。初月は一定額1か月分の料金または一定額のいずれか高い額
  • 見積りに基づく代行の形態当該依頼について、利用者が支払った(または支払うべき)金額当該依頼の代金額
  • 無料の形態料金の支払がないため、基準額がない一定額(例:1万円)

上限の基準を直前12か月の支払総額だけにすると、無料利用者や課金前の利用者の上限が0円になり、実質的な全部免責として扱われるおそれがあります。下限の一定額を置いて手当てします。

上限の考え方を形態ごとに別々にしてしまうと、規約全体で責任の天井がばらばらになります。形態が違っても、「上限は課金サイクルに結び付ける」「下限の一定額を置く」「故意・重過失と生命・身体は上限の対象外」という三つの原則を揃えておけば、読む人にも筋が通って見えます。免責を場面ごとに散らして書くのではなく、サービスの変更、停止、外部サービスの障害による損害は、全て「責任の条の定めるところによる」と、一か所の条に接続する書き方にします。

課金の形が違うサービスをまとめたときは、返金の考え方も形態ごとに書き分けます。デジタルなサービスだからという理由だけで「返金しない」と書くと、運営者の債務不履行による解除と返金まで排除する趣旨に読めます。形態ごとの返金の定めは、アプリの特定商取引法に基づく表記と、課金・サブスクの規約の考え方に沿って整理します。

ガイドライン・ヘルプ・内部の運用基準との優先関係

規約本体のほかに、サービスには下位の書類が増えていきます。コミュニティガイドライン、ヘルプページ、料金表、プラン別の説明、運営者内部のアカウント停止の基準などです。これらと規約の関係を決めておかないと、利用者との間で、どれに従うのかが争いになります。

下位書類の種類と、規約との関係

書類利用者に見せるか拘束力優先関係の考え方
コミュニティガイドライン見せる利用者に従う義務を課す規約の禁止事項を具体化するものとして、規約の一部とする。規約と矛盾するときの優先を決める
サービス別規約・特則見せる該当する形態の利用者を拘束特則が共通規約に優先するのは、その形態に関する事項に限る
料金表・プラン説明見せる料金は契約内容規約の料金の条に「料金表による」と接続し、変更の手続を規約の変更とそろえる
ヘルプページ・FAQ見せる原則として説明。契約内容にしたい部分だけ取り込む説明が規約と食い違わないように、規約を優先する旨を書く
内部の運用基準(停止、通報対応)見せない利用者を拘束しない規約に「運営者が定める運用基準に従って運用する」と書くにとどめ、利用者向けの個別規定にはしない
簡易版の案内(サイトの紹介文)見せる契約内容ではない規約の全文が優先する旨を表示する

利用者向けに公開した書類は、それが規約の一部になる旨を書けば、利用者を拘束する規程になります。内部の運用基準を公開すると、基準そのものが拘束力を持つ書類になり得るので、公開するかどうかを先に決めます。

下位書類に優先関係を持たせるときは、一つ注意があります。規約に「個別規定は、本規約と矛盾するときは、個別規定が優先する」と書き、さらに「運営者は個別規定を新設または変更できる」と書くと、運営者が下位書類を変えるだけで、実質的に規約を変えられることになります。規約の変更には、民法548条の4の要件と周知の手続が必要ですが(効力が生じる時期を定めて周知すること、合理性を理由とする変更は、その時期の前に周知しておかなければ効力を生じないこと)、下位書類の変更は、その手続を迂回してしまいます。

優先関係の条項の改訂例

個別規定の優先

改訂前本規約と個別規定の内容が抵触する場合には、個別規定が優先して適用される。当社は、個別規定を新設又は変更することができる。
改訂後個別規定は、本規約の定めを具体化し、又は特定のサービスについての追加の条件を定めるものとする。本規約と個別規定の内容が抵触する場合には、利用者に有利な定めが優先する。ただし、個別規定の変更が利用者に不利益となる場合は、第○条(規約の変更)の手続による。

下位書類の優先を一律に認めるのではなく、変更手続の迂回を防ぐ。

料金表との関係

改訂前料金は、別に定める料金表による。
改訂後料金は、当社が本サービス上に掲載する料金表に定めるとおりとする。料金表の変更は、第○条(料金の変更)の手続により行う。

料金の変更の手続を、規約の中の条に接続する。

内部の基準

改訂前停止の基準は、ガイドラインに定める。
改訂後当社は、アカウントの停止その他の措置を、当社が定める内部の運用基準に従って運用する。当該基準は、利用者に対する権利義務を新たに定めるものではない。

運用基準を、利用者を拘束する個別規定にしない。

改訂前の欄は、規約の雛形やサービスの当初の案によくある定め方です。

下位書類との優先関係のほかに、個別契約との関係も決めておきます。規約が定型約款として全員に共通の条件を定める一方、高額なプランや法人との取引では、個別に契約書や申込書を交わすことがあります。この場合は、個別契約に定めがある事項は個別契約が優先し、定めがない事項は規約による、と書くのが通常です。外部のサービス(クラウドソーシングなど)を通じて申し込まれる取引では、そのサービスの規約と、運営者の規約のどちらを優先するかも、冒頭の条で決めます。

事務所の書類では

写真と文章を投稿するSNSの規約に、ガイドラインやヘルプページ、ポリシーなどを「個別規定」と定義して規約の一部とし、内容が異なる場合は個別規定を優先させる、という条を置いた案件がありました。ユーザーによる投稿がある型のサービスで、投稿の細かいルールを、規約の改定を伴わずに運営者が見直せる便利さがある一方、先に述べた変更手続の迂回の問題があります。事務所が規約を確認するときは、個別規定が規約を具体化する範囲で優先しているか、利用者に不利益な変更が規約変更の手続を経ずに行われる書き方になっていないかを、確認項目としています。

C2Cのプラットフォームの案件では、アカウント停止の判断基準を、運営者向けの内部の運用基準として作成し、規約には「運用基準に従って運用する」と書きました。基準を利用者向けの個別規定として公開すると、規約の「個別規定が優先する」という条項により、基準そのものが利用者を拘束する規程になるためです。

新しい形態を足すとき、旧い規約から置き換えるとき

サービスに新しい提供形態を足すときは、既存の規約の幹には触れず、枝を一本足すことを基本にします。たとえば、iOSで始めたアプリにAndroid版を足す場合、購入したストアによって、サブスクリプションの解約の場所と期限が違います。この違いは、「購入ストア」を定義し、解約その他の管理は購入ストアでのみ行えることを枝として書きます。画面の文言も、購入ストアに応じて解約先を切り替えます。幹にあたる禁止事項や責任の条は、そのままで済みます。

古い規約を新しい一本の規約に置き換えるときの手順は、既存の利用者がいるかどうかで変わります。既存の利用者がいない段階の改訂は、規約の変更の手続が要りません。両ストアで同じ日に公開し、書面も同じ日に掲載する場合に、規約に同意して登録済みの利用者がまだいなければ、事前に周知する必要はありません。ただし、ウェブ版やテスト版の登録者がいないかどうかの確認は必要です。既存の利用者がいる場合は、民法548条の4に従い、変更の効力が生じる時期をあらかじめ決め、その時期と、変更すること、変更後の内容を、ウェブ上の掲載などの適切な方法で知らせます。利用者に不利益な変更では、効力発生時期までに周知が済んでいることが効力の条件です(同条3項)。変更の手続の詳細は利用規約の変更:同意なく変更できる条件と周知の方法に書いています。

旧い規約を一本の新しい規約に置き換える手順

  1. 現状の棚卸しどの形態の利用者が、いつの版の規約に同意しているかを確認する。既存の利用者がいるかどうかも確認する
  2. 幹と枝の整理旧い規約の条項を、全員に当てはまるものと、特定の形態だけのものに分類する
  3. 新しい規約の作成定義語を整理し、条件付きの枝を組み込む。下位書類との優先関係の条を置く
  4. 周知期間の逆算効力発生日から逆算して、周知の期限を決める。納品日や公開日の時点で期限が過ぎていないかを確認する
  5. 正本の掲載と旧版の取り下げ新版を正本の場所に掲載し、旧版を確実に下げる。旧版は履歴として保存する
  6. 既存の利用者への告知と記録アプリ内のお知らせ、登録メール、サイトの掲示など複数の経路で告知し、告知の日時を記録する

利用者に不利益な変更では、十分な周知期間と、変更の内容と時期の分かる告知が必要です。

起きがちなこと

よくあるご質問

サービスごとに規約を分けるほうが安全ですか。

一概には言えません。運営者が同じで、禁止事項、責任、権利、個人情報の扱いが大半で共通なら、一本にまとめて形態別の条項を条件付きで足すほうが、改定の手間も少なく、書面間のずれも起きにくいです。運営者の法人が違う場合や、利用者層・適用法令が大きく違う場合は、分ける構成が向いています。

会員登録をしない利用者にも、規約は有効ですか。

運営者が事前に、この規約を契約の内容とする旨を相手に示していれば、個別の条項についても合意があったものとして扱われます(民法548条の2第1項2号)。申込みフォームや見積書、返信のメールに、その旨と規約の掲載場所を載せておきます。請求書にURLを載せるだけでは、表示として弱くなります。

責任の上限は、サービスごとに違う額でも問題ありませんか。

課金の形が違えば、上限の基準額が違うのは自然です。ただし、故意または重大な過失の場合を上限の対象から外すこと、生命・身体の損害を上限の対象から外すこと、無料の利用者のための下限額を置くことは、全ての形態で揃えます。軽過失にだけ適用されることを明らかにしていない一部免責の条項は、消費者契約法8条3項により無効になります。

ガイドラインを規約より優先させてもよいですか。

できますが、運営者がガイドラインを自由に変更でき、それが規約より優先する書き方だと、規約の変更の手続(民法548条の4)を迂回してしまいます。ガイドラインは規約を具体化する範囲で優先させ、利用者に不利益な変更は規約の変更の手続で行う、という整理にします。内部の運用基準は、利用者向けに公開せず、規約には「運用基準に従って運用する」と書く形が使えます。

既存の利用者がいるサービスで規約を一本にするときの手続は何ですか。

変更の効力が生じる時期を決め、変更すること、変更後の内容、その時期を、ウェブ上の掲載などの適切な方法で知らせます(民法548条の4第2項)。合理性を理由とする変更は、その時期の前に知らせていないと効力が生じません(同条3項)。既存の利用者がいないなら、この手続は不要です。

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