アプリの利用規約の作り方と、必要な条項

利用規約は、利用者とのトラブルが起きた日に読まれる契約書です。サービスの仕組みを正しく写し取ることから始めます。

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他社のテンプレートを流用した規約は、サービスにない機能の条項が残り、サービスにある機能の条項が抜けがちです。トラブルの日に、肝心の条項がありません。

このページの要点

  • 利用規約は、利用者との契約の内容そのもの。サービスの機能・料金・データの流れを先に図にして、それを条項に写し取る。
  • 公開前にそろえるのは、利用規約、プライバシーポリシー、特定商取引法に基づく表記(有料の場合)、外部送信の公表(対象事業の場合)の4つが基本。
  • 「一切責任を負わない」という全部免責の条項は、消費者との契約では無効(消費者契約法8条1項)。軽過失の場合に限って上限を定める書き方にする。
  • アカウント停止・退会・データ削除・未成年者の利用は、問い合わせが最も多い部分。運営の手順と規約の文言をそろえる。
アプリやWebサービスの利用規約は、利用者とトラブルになった日に、はじめて真剣に読まれる契約書です。そのとき規約に書かれていることが、運営者の主張の根拠になります。書かれていなければ、民法などの一般的なルールで判断されます。利用規約づくりは、他社の規約を探すところからではなく、自社のサービスの仕組みを正確に書き出すところから始めます。

公開前にそろえる書類は、利用者が誰かで変わる

最初に決めるのは「誰に提供するサービスか」です。利用者が事業者だけなのか、個人が個人として申し込めるのかで、かかる法律が変わり、必要な書類も変わります。事業者向けのサービスであれば、消費者契約法や特定商取引法の通信販売の規制は、原則として及びません(消費者契約法2条1項・2項、特定商取引法26条1項1号)。一方、個人が趣味や副業のために申し込める作りなら、免責の書き方、自動更新の書き方、特定商取引法に基づく表記の要否が変わります。

アプリ・Webサービスで公開前にそろえる書類
書類必要になる場面主に決めること
利用規約(SaaSなら利用契約)事業者向け・個人向けとも、ほぼ必ず提供する内容、料金と支払、禁止事項、停止と退会、免責と責任の上限、知的財産、データの扱い
プライバシーポリシー個人情報を扱うなら必須(法人の顧客の従業員の情報や、アプリの利用者の情報も含む)取得する情報、利用目的、第三者提供と委託、外国にある第三者、安全管理措置、開示等の手続
特定商取引法に基づく表記個人向けの有料サービス事業者の情報、価格、支払時期と方法、提供時期、解約と返金
外部送信ポリシー(Cookieポリシー)解析ツール・広告タグ・SDKを使うとき。外部送信規律の対象サービスなら公表が義務送信される情報、送信先、利用目的
個別のルールマッチング・C2C・コミュニティ機能があるときキャンセル・返金ポリシー、コミュニティガイドライン、出品者向けの規約
SLA・個別契約・データの取扱いの覚書事業者の顧客データを預かるSaaS稼働率、障害時の対応、委託先としての個人データの取扱い

事業者向けと個人向けの両方を扱う場合は、1本の規約にまとめるより、別々に作るか、個人の利用者だけに適用される条項をはっきり分けて置くほうが安全です。事業者向けの規約に「事業者向けのサービスです」と書いただけでは、個人が開業前の準備や副業で使った場合に、消費者の保護に関する法律が及ぶ余地が残ります。事業者だけに提供するなら、「事業者」を定義し、登録の時点で事業のために利用することを確認する欄を設けます。

規約を書く前に、サービスの仕組みを図にする

事務所でアプリやWebサービスの規約をお引き受けするときは、条文を書き始める前に、次の順番でサービスの仕組みを確認しています。順番を飛ばして条文から書くと、後から決済の方法やデータの流れが変わったときに、規約・プライバシーポリシー・特商法表記のすべてを書き直すことになります。

規約づくりの順番

  1. 業法の入口を確認する

    宅地建物取引、不動産の鑑定、投資の助言、資金の移動、前払式の支払手段、旅行の手配など、許認可が必要な業務に当たらないか。業務の実態は書類の言い換えでは変えられないので、事業の設計を先に固めます。

  2. お金の流れを決める

    アプリストアの課金か、決済代行サービスか、利用者どうしの代金を運営者が受け取るのか。決済の方法で、特商法表記・返金・資金決済法の論点が変わります。

  3. データの流れを棚卸しする

    利用者が入力する情報、端末から自動で取得する情報、外部の認証・解析・メール配信・AIなどに送る情報と、その送り先の事業者の所在国を一覧にします。

  4. 書類を起案する

    利用規約、プライバシーポリシー、特商法表記、外部送信ポリシーを、同じ一覧をもとに作ります。それぞれの書類は単独で読んでも意味が通じるよう、冒頭で運営者とサービスを定義します。

  5. 画面と突き合わせる

    登録画面の同意欄、申込みの最終確認画面、決済完了のメール、解約画面、アカウント削除の画面、アプリストアへの申告と、書類の文言を一つずつ照合します。

  6. 公開日と効力発生日を決める

    既存の利用者がいる場合の改訂は、周知期間から逆算して効力発生日を決めます。

利用規約に入れる条項と、並べ方

規約の条項は、利用者が手続の順番に読んでいけるように並べます。事務所の作成例では、おおむね次の構成をとっています。

アプリ・Webサービスの利用規約の構成例
まとまり主な条項
総則目的と適用範囲、定義、規約への同意と契約の成立、個別のルールとの関係
会員登録、登録を断る場合、未成年者、IDとパスワードの管理、登録情報の変更
サービスサービスの内容と性質(行うこと・行わないこと)、結果の位置づけ、外部サービスとの連携、変更・中断・終了
料金料金と支払、自動更新、解約、返金、決済の保留・拒否
利用者の義務禁止事項、正確な入力、無断転載やデータの自動収集の禁止
停止と終了利用停止・登録抹消の事由と手続、退会、アカウント削除後のデータ
責任保証しないこと、免責、損害賠償の範囲と上限、利用者どうし・提携先とのトラブル
一般条項知的財産、個人情報(プライバシーポリシーへの委任)、反社会的勢力の排除、権利義務の譲渡、規約の変更、分離可能性、終了後も効力を持つ条項、準拠法・管轄

見落とされやすいのが、終了後も効力を持つ条項(存続条項)です。契約が終わった後の紛争では、まさに責任の上限や管轄の条項が争われます。責任の上限、準拠法と管轄、データの取扱い、投稿の利用許諾のように、終了後に働くべき条項を列挙しておきます。反社会的勢力の排除は、禁止事項の一つとして書くだけでなく、①属性の表明保証、②禁止する行為、③催告なしの解除という三つを備えた独立の条にします。

「何をして、何をしないか」を条文で決める

規約で運営者を守る一番の方法は、免責の条項を厚くすることではありません。このサービスが何をして、何をしないのかを、契約の内容として先に決めておくことです。約束していないことについては、そもそも約束を破ったという責任を問われにくくなります。

たとえば、投資の判断に関わる情報を表示するWebサービスであれば、次のように、行うことと行わないことを並べて書きます。

条文の書き方の例 (本サービスの内容)

  1. 当社は、本サービスにおいて、公開されている統計データ等に基づく推計値の表示、利用者が入力した条件に基づく試算その他の情報及び分析のための機能を提供します。
  2. 当社は、本サービスにおいて、資産の売買その他の取引の代理若しくは媒介、資産の価格の鑑定若しくは評価、個別の投資判断に関する助言若しくは勧誘、又は資金の貸付け、預託の受入れ若しくは送金を行いません。
  3. 本サービスにより表示される推計値及び試算の結果は、利用者が自ら判断するための参考情報であり、利用者は、重要な判断をするに当たっては、必要に応じて専門家の意見を求めるものとします。

「行わないこと」の列挙は、許認可が必要な業務に当たらないことを利用者と決済代行会社の双方に示す意味もあります。ただし、実態が許認可の必要な業務であれば、書いても解消しません。

テンプレートを流用した規約で、よく見つかる不備

事務所に寄せられる規約のレビューのご依頼では、他社の規約やインターネット上のテンプレートをもとに作られた規約が大半を占めます。テンプレートそのものが悪いのではなく、自社のサービスに合わせ切れていないことが問題です。よく見つかるのは次のような不備です。

  • 定義されていない言葉が使われている:「無料プラン」「ベータ期間」「管理画面」「通知」などが定義されないまま使われ、条項どうしが食い違います。典型は、「有料プランが終わると無料プランに移り、データは消えない」という条項と、「契約が終了したら一定期間内にデータを削除する」という条項が並び、どちらが優先するのか分からない状態です。
  • 雛形の消し残り:物販やコンサルティングの雛形にあった「商品」「納品」「会場」という言葉が残り、サービスの呼び方が規約の中で何通りも混在しています。
  • 条項の継ぎ足しで参照が壊れている:「第◯条に基づき」の参照先が別の条を指している、「前項に定める料金」とあるのに前項に料金の定めがない。条項を足したら、全文の参照を照合し直す必要があります。
  • 通知の方法と到達が決まっていない:料金の変更やサービスの終了を「事前に通知する」と書いてあっても、メールか、管理画面か、アプリ内のお知らせか、いつ届いたとみなすのかがなければ、期間の数え方が争いになります。
  • 停止しかなく、契約を終わらせる手段がない:規約違反や未払いの利用者を停止できても、運営者の側から契約を終了させる定めがない。停止中の料金、再開の条件も空白のままです。

免責と責任の上限は、消費者契約法の範囲で書く

個人の利用者との契約では、消費者契約法が免責の書き方を直接制限しています。運営者の債務不履行や不法行為による損害賠償責任の全部を免除する条項は無効です(消費者契約法8条1項1号・3号)。故意や重大な過失がある場合に責任の一部を免除する条項も無効です(同項2号・4号)。さらに、責任の一部を免除する条項のうち、軽い過失の場合だけに適用されることを明らかにしていないものも無効になります(同条3項)。「法令で許される範囲で責任を負わない」という書き方は、この規定に触れるおそれがあります。

オンラインゲームの会員規約にあった「当社の措置により会員に損害が生じても一切損害を賠償しない」という条項について、適格消費者団体の差止めの請求を認めた裁判例もあります(東京高等裁判所令和2年11月5日判決)。無効になった条項は、その部分だけ縮めて読まれるわけではなく、条項ごと働かなくなると考えておく必要があります。

事務所の改訂例:免責・責任の上限(依頼者原案・相手方提示案からの改訂)

全部免責
改訂前当社は、本サービスの利用により利用者に生じた損害について、一切の責任を負いません。改訂後当社は、当社の責めに帰すべき事由により利用者に生じた損害を、次条に定める範囲で賠償します。
全部免責は消費者契約法8条1項1号・3号で無効です。免責したい場面は、損害賠償の条(範囲と上限)に接続する形で書きます。
上限が0円になる
改訂前当社の賠償額は、損害が生じた月の前12か月間に利用者が支払った利用料金の総額を上限とします。改訂後当社の賠償額は、直前12か月間に利用者が支払った利用料金の総額又は一定額のいずれか高い額を上限とします。ただし、当社、当社の代表者又は当社の使用する者の故意又は重大な過失による場合は、この限りでありません。
無料プランや課金開始前の利用者は上限が0円になり、実質的に全部免責に近づきます。下限額を置き、故意・重過失の除外を上限の条項の中に書きます。
データの消失を間接損害にする
改訂前当社は、データの滅失、逸失利益その他の間接損害について責任を負いません。改訂後当社は、データの復旧又は再現の義務を負いません。データの滅失により生じた損害の賠償は、前条に定める範囲によります。
データの消失は、クラウドやアプリでは典型的な直接の損害です。間接損害として除外すると、賠償がほぼゼロになり、全部免責と評価されるおそれがあります。

免責の場面ごとに「故意又は重大な過失がある場合を除き、責任を負いません」と書く方法も、軽い過失の場合の責任を全部免除することになり、同じ問題を生じます。外部サービスの障害、サービスの変更、利用の停止などの免責は、すべて「損害賠償の範囲と上限の条の定めるところによる」と、一つの条に接続させるのが事務所の書き方です。生命・身体の損害は、上限の対象から外しておきます。

あわせて注意したいのが、「当社が合理的に判断した場合」に会員資格を取り消せる、データを削除できるといった白地の条項です。利用者の権利を一方的に制限する条項として、消費者契約法10条や、民法の定型約款の不当条項の規定(548条の2第2項。詳しくは同意の取り方と定型約款のページ)の問題になります。

アカウントの停止・登録抹消・退会

運営開始後に問い合わせが最も多いのが、アカウントの停止と退会です。規約の文言と運営の手順を、最初からそろえておきます。

  • 停止・抹消の事由は具体的に列挙します。原則として事前に通知して是正の機会を与え、不正利用や第三者に危害が及ぶおそれがある場合に限って即時に措置します。
  • 停止した場合の範囲(一部の機能か、全部か)、停止中の料金、再開の条件を書きます。停止の判断について説明を求める窓口があると、紛争になりにくくなります。
  • 退会とアカウント削除で、何が消え、何が残るかを書き分けます。端末の中のデータとサーバー上のデータは、消え方が違います。
  • アカウントを削除しても、有料プランの定期購入は解約されないことがあります。アプリストアで購入したものは、ストアでの解約が必要です。規約とアプリ内の案内の両方に明記します(課金・サブスクのページ)。
  • 長期間ログインのないアカウントを削除するなら、削除の一定期間前に、規約に定めた方法で通知する仕組みにします。

ご相談でよく聞かれること:規約と実装のずれ

Q無料で使っている利用者のデータを、一定期間で削除するルールを入れたい。まだ有料プランは実装していません。

Aルールを本文に書いたうえで、適用の開始は「別に定める日から」とし、その日の一定期間前までに周知すると、本文と附則の両方に書く方法をとりました。リリースの時点から適用されると読まれるのを防ぎ、有料プランを導入するときは、規約の改訂ではなく適用開始日の告知だけで運用に移れます。

Qゲストで使う場合は、データは端末の中にしか保存されないと書いてよいですか。

A地図の表示のために、閲覧している範囲の情報が外部に送られるなど、ゲストでも通信が発生する機能がありました。「端末内にのみ保存」と言い切らず、例外として送信される情報を明記しました。規約の文言は、実装を確認してから確定します。

投稿・アップロードされたコンテンツの利用許諾

利用者が写真や文章を投稿できるサービスでは、運営者がそのコンテンツを使える範囲を規約で決めます。「保存・表示・送信できる」とだけ書くと、サムネイルの生成、圧縮、トリミングのような加工が許諾の範囲から外れ、サーバーやメール配信の事業者に複製させる根拠も弱くなります。加工を含む利用、委託先への再許諾、著作者人格権を行使しないことまで書きます。

一方で、広報や広告への利用まで広く許諾させると、利用者の利益を一方的に害する条項と評価されかねません。事務所の作成例では、広報への利用は利用者が共有・公開した投稿に限り、著作者人格権の不行使も許諾した利用の範囲に結び付けて、範囲を絞りました。写り込んだ第三者からの削除の申出を受け付ける窓口と、その手順も規約に置いておきます。

未成年者の利用

未成年者を受け入れるかどうかは、サービスの性質で決めます。投資や不動産のように成人向けのサービスでは、親権者の同意を確認する仕組みがないなら「満18歳以上に限る」とするのが現実的です。年齢制限を設けない方針なら、未成年者は法定代理人の同意を得て利用することを規約で求め、年齢を偽った場合の扱い(民法21条)と、取消しの申出の窓口を用意します。アプリストアの年齢区分(レーティング)は、ストアが表示のために定める区分で、規約の年齢方針とは別のものです。

個人情報の取扱いについての本人の同意は、子どもの年齢によっては法定代理人から得る必要があります。プライバシーポリシーでの扱いはプライバシーポリシーのページで整理しています。

公開前のチェック:利用規約

  • 利用者が事業者だけか、個人も含むかを決め、規約の書き分けに反映した
  • サービスの「行うこと」と「行わないこと」を条文にした
  • 規約で使う言葉を定義し、条項どうしが食い違っていないことを確認した
  • 免責は損害賠償の条に接続し、故意・重過失の除外と下限額を上限の条項の中に書いた
  • 停止・抹消の事由を具体的に列挙し、手続と再開の条件を書いた
  • 退会・アカウント削除で消えるデータと残るデータを書き分けた
  • 終了後も効力を持つ条項を列挙した
  • 条項を足した後、全文の参照番号を照合した

よくあるご質問

アプリの利用規約は、法律で必ず作らなければならないものですか?

利用規約そのものを一律に義務づける法律はありません。ただし、利用者との契約の内容を決める書類なので、ないとトラブルのときに民法などの一般的なルールで判断されます。プライバシーポリシーや特定商取引法に基づく表記は、場面に応じて法律が公表や表示を求めています。

利用規約のテンプレートや他社の規約を参考にしてもよいですか?

参考にすること自体はできますが、他社の規約の文章をそのまま使うと著作権の問題が生じることがあります。また、サービスにない機能の条項が残り、サービスにある機能の条項が抜けやすくなります。機能・料金・データの流れを書き出したうえで、それに合わせて作り直します。

「当社は一切責任を負いません」と書いてはいけないのですか?

個人の利用者との契約では、運営者の責任を全部免除する条項は消費者契約法8条1項で無効です。軽い過失の場合に限って賠償額の上限を定め、故意・重大な過失の場合と生命・身体の損害は上限の対象外とする書き方にします。

事業者向けのSaaSなら、消費者契約法は気にしなくてよいですか?

利用者が事業として利用する限り、消費者契約法は適用されません。ただし、個人が事業以外の目的でも申し込める作りなら、その人との関係では消費者契約になり得ます。「事業者」を定義し、登録時に事業のために利用することを確認する欄を設けます。また、事業者間でも、故意・重過失まで免責する条項は効力が否定されることがあります。

利用規約とプライバシーポリシーは、1つの文書にまとめてもよいですか?

まとめることもできますが、別々にするのが一般的です。プライバシーポリシーは法律が公表を求める事項をまとめた文書で、利用規約は契約の内容を決める文書なので、役割が違います。アプリストアでもプライバシーポリシーのURLの登録が求められます。

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