このページの要点
- 削除による投稿者への賠償責任を免れるには、申出に侵害情報等が示され、投稿者に削除の同意を照会して7日が過ぎるなどの要件がある(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律3条2項)。
- 7日以内の通知や削除基準の公表といった義務は、月間の利用者数などで指定された大規模事業者だけにかかる(20条以下)。小さなサービスには法律上の義務ではないが、手順を作る目安になる。
- 発信者情報は、運営者が保有していなければ開示できない。IPアドレスと送信日時の記録、保存期間、開示請求の受付手順、プライバシーポリシーの利用目的と「法令に基づく場合」を整える。
- 口コミ・レビューでは、批判的な感想と違法な投稿を分け、やらせ投稿を禁止する。投稿への謝礼は、評価の高低や内容を条件にすると、事業者の表示(ステマ規制)になり得る。
最初に結論:削除の窓口と手順を先に決め、開示請求に応じられるログを残しておく
結論
アプリやWebサービスの利用規約には、「投稿内容については投稿者が責任を負い、当社は一切責任を負わない」「不適切と判断した投稿は予告なく削除できる」といった定めがよく置かれます。この二つの文は、運営者を守るために書かれていますが、実際にトラブルが起きたときに運営者を守るのは、文言よりも「申出を受けて、どう動いたか」という記録と手順です。
このページでは、投稿型のサービスを運営する事業者を対象に、権利を侵害されたという第三者からの削除申出への対応、運営者が自分の判断で削除するときの基準、発信者情報の開示請求に備えたログとプライバシーポリシー、口コミ・レビューを集めるサービスの削除要請とやらせ投稿を、順に説明します。投稿の権利の帰属と運営者への利用許諾はアプリの利用規約の作り方、アカウント停止の基準はマッチング・C2Cプラットフォームの利用規約で扱っているので、ここでは削除と開示の手続に絞ります。
法律が運営者に求めること:全員にかかる部分と、大規模事業者だけの部分
投稿の削除と発信者情報の開示を定めている法律は、かつて「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」、通称プロバイダ責任制限法と呼ばれていました。令和6年の改正(令和6年法律第25号)が2025年4月1日に施行され、題名は「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」に改められました。総務省はこの法律を「情報流通プラットフォーム対処法」と略して案内しています。題名が変わっても、掲示板・SNS・口コミ・投稿型サイトの運営者が従来から負っていた責任の整理(3条)と、発信者情報の開示請求(5条以下)の仕組みは引き継がれ、そこに大規模事業者向けの義務が加わりました。
運営者が押さえておく条文(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)
- 3条1項他人の権利を侵害する投稿を削除することが技術的に可能な場合に、運営者が賠償責任を負うのは、権利侵害を知っていたとき、または流通を知っていて侵害を知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときに限られる
- 3条2項投稿を削除した場合に、投稿者に対して賠償責任を負わないのは、権利が不当に侵害されていると信じる相当の理由があったとき(1号)、または被害を受けたとする人から侵害情報等を示した申出があり、運営者が投稿者に削除への同意を照会して、7日を経過しても同意しない旨の申出がなかったとき(2号)。いずれも、削除が必要な限度で行われた場合に限る
- 5条・6条被害を受けたとする人は、権利侵害が明らかであることなどの要件を満たすとき、運営者に発信者情報の開示を請求できる。運営者は原則として発信者の意見を聴かなければならず(6条1項)、開示に応じなくても故意または重大な過失がなければ賠償責任を負わない(6条4項)
- 8条・15条・16条裁判所に発信者情報開示命令を申し立てる手続(8条)。申立ての相手方の運営者は、他の事業者の情報を申立人に提供する提供命令(15条)や、発信者情報を消去してはならない消去禁止命令(16条)を受けることがある
- 20条以下利用者数が大きいサービスを総務大臣が大規模特定電気通信役務提供者に指定し、申出の受付方法の公表(22条)、調査(23条)、申出者への通知(25条)、削除基準の公表(26条)、発信者への通知(27条)、年1回の実施状況の公表(28条)を義務付ける
条文は2026年10月時点の現行規定です。選挙運動期間中の文書図画に関する特例(4条)など、このページで扱わない規定もあります。
大規模事業者に指定されるのは、同法の施行規則(令和4年総務省令第39号。以下「施行規則」)8条により、サービスを1か月に利用した人の数(投稿せずに閲覧しただけの人も数え、国外にいると推定される人を除く)の1年間の平均が1,000万を超えるか、1か月に発信者となった人の延べ数の1年間の平均が200万を超えるサービスで、そのうえで総務大臣が指定したものです。個人や中小企業が運営するアプリが、この基準に達することは通常ありません。そのため、22条から28条までの義務は、ほとんどの運営者には法律上かかりません。
運営者の規模による違い
| 場面 | すべての運営者 | 大規模特定電気通信役務提供者 |
|---|---|---|
| 削除申出の受付 | 法律上の受付方法の定めはない。ただし3条2項2号の免責を受けるには、申出に侵害情報等が示されている必要がある | 電子的に申出ができる方法を定めて公表し、申出者に過重な負担を課さない(22条)。受け付けた日時を申出者が分かるようにする |
| 申出後の対応 | 遅滞のない判断が望ましい。投稿者への照会は任意で、7日待てば3条2項2号の免責が使える | 遅滞なく調査し(23条)、申出から原則7日以内に結果を通知(25条、施行規則16条) |
| 削除の基準 | 規約に定める。恣意的でない基準が望ましい | 原則として、自ら定めて公表した基準に従う場合に限り削除できる(26条)。公表は措置の14日前まで(施行規則17条) |
| 発信者への説明 | 規約で定める範囲 | 削除したときは、その旨と理由を遅滞なく通知する(27条) |
| 発信者情報の開示請求 | 5条から8条までの手続がかかる | 同じ。加えて年1回、実施状況の公表(28条) |
表の「望ましい」は法律上の義務ではなく、事務所が規約と運用手順を組むときの考え方です。
削除申出の窓口と、受付から回答までの手順
第三者が運営者に「この投稿を削除してほしい」と申し出る場面は、利用者が自分の投稿を削除する場面とは別に、規約で独立した条として設けます。規約の中の「通報」と同じ窓口にまとめる運営者もいますが、通報は誰でも気軽に押せるボタンで、権利侵害の申出は、権利を侵害されたとする人が理由を示して行うものです。この二つを分けておくと、申出に書かれるべき情報が足りないときに、補ってもらう手順を置けます。
3条2項2号の免責を使うために必要なのは、申出に「侵害情報」(問題とされる投稿)、「侵害されたとする権利」、「権利が侵害されたとする理由」の三つ(法2条7号の侵害情報等)が示されていることです。窓口の入力欄を、この三つに合わせて設計しておきます。
削除申出を受けたときの手順の例
- 受付と受付日時の返信申出を受け付けた日時を記録し、申出者に自動返信で伝える。大規模事業者には法律上の要請(22条2項3号)だが、小規模でも後で時系列を示せる
- 必要事項の確認侵害情報の場所(URLや投稿の特定情報)、侵害されたとする権利、その理由、申出者の連絡先を確認する。足りなければ補足を求める
- 一次判断誰が見ても違法・規約違反であることが明らかな投稿(裸の写真の無断掲載など)は、投稿者への照会を待たず仮に非公開にする運用を規約に置く。判断が分かれるものは、次の照会へ進む
- 投稿者への照会申出の内容(侵害情報等)を示して、削除に同意するかどうかを投稿者に尋ねる。回答期限は7日とし、期限は投稿者が照会を受けた日から数える
- 判断と措置同意があれば削除する。同意しない旨の申出があれば、運営者が権利侵害の有無を判断する。7日を過ぎて申出がなければ、3条2項2号により削除による投稿者への賠償責任を負わない
- 両者への通知と記録申出者には対応した内容を、投稿者には削除した場合にその理由を伝える。判断の根拠と通知の記録を残す
照会の期間は、私事性的画像記録(いわゆるリベンジポルノ)については、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律4条により2日になります。
手順の三番目の「仮に非公開にする」運用は、法律が定める免責とは別に、運営者が規約で自ら定める措置です。非公開にする対象は、明らかな違法・規約違反に限り、申出者が身元不明の場合は慎重に扱います。この線引きを書かないまま「当社は必要と判断した投稿を予告なく削除できる」とだけ定めると、投稿者に削除理由を問われたときに根拠が示せなくなります。
第三者からの削除申出に関する規約の条文例(要旨)
本サービス上の投稿が自己の権利を侵害しているとする者は、当社所定の方法により、侵害されたとする投稿の場所、侵害されたとする権利及びその理由を示して、当社に削除を申し出ることができる。
当社は、前項の申出を受けたときは、必要に応じて、当該投稿をした利用者に対し、申出の内容を示して削除に同意するかどうかを照会する。照会を受けた日から7日以内に同意しない旨の申出がない場合、当社は、当該投稿を削除その他の必要な措置の対象とすることができる。
当社は、権利の侵害が明らかである場合その他緊急の必要がある場合には、前項の手続を経ず、当該投稿を一時的に閲覧できない状態にすることができる。この場合、当社は、事後に当該利用者に対し、その旨及び理由を通知する。
当社が前各項の措置を講じ、又は講じなかったことについて、利用者及び申出者に生じた損害に対する当社の責任は、第○条(免責)の定めるところによる。ただし、当社に故意又は重大な過失がある場合は、この限りでない。
第4項の免責は、消費者契約法8条の範囲で書きます。「故意又は重大な過失の場合を除く」としておく理由は、プラットフォームの責任の書き分けと同じです。
事務所の書類では
旅行の写真と位置情報を地図に残すアプリの規約を作成したとき、利用者が作成したページをURLとパスコードで他人に見せる機能(共有ページ)があったため、写り込んだ第三者が削除を申し出る窓口を、規約の独立した条として設けました。内容は、①写り込んだ人など、自分の肖像や個人情報が共有ページに含まれるとする第三者が、運営者の窓口に申し出られること、②運営者が、必要な範囲で共有ページの公開停止などの措置を講じられること、③投稿したユーザーに意見を照会し、相当の期間内に回答がなければ待たずに措置を講じられること、④開示請求があったときの対応、の4点です。
この条を立てる前の一般的な定め方は、禁止事項に「他人の肖像権を侵害する写真の投稿」を挙げ、運営者の削除権限を定めるだけで、第三者が申し出る手段が書かれていないものです。禁止の定めだけでは、被害を受けた人が誰に何を言えばよいか分からず、結局、運営者が問い合わせを受ける前に、ストアのレビューや外部の窓口に苦情が届くおそれがあります。
権利の種類ごとに、運営者が見る材料が違う
「削除してほしい」という申出の中身は、権利の種類によって、運営者が確認できることも、確認できないことも違います。同じ手順を使うとしても、一次判断の材料を権利ごとに分けておくと、担当者によって判断がぶれません。
権利の種類ごとの確認材料
| 申出の種類 | 典型例 | 運営者が確認できること | 運営者には分からないこと |
|---|---|---|---|
| 著作権 | アイドル・キャラクターの画像、他人のイラストや文章の転載 | 申出者が示す原著作物と投稿の対比、権利者であることの説明 | 申出者が本当に権利者か、転載が許諾されているか。許諾や引用の成否は事情次第 |
| 肖像権・プライバシー | 写真に写り込んだ第三者、顔や自宅、位置が分かる写真 | 写真に申出者が写っているか、投稿の公開範囲、位置情報の表示の仕方 | 撮影時に本人の同意があったか |
| 名誉毀損・侮辱 | 実在の人物や店舗に関する断定的な悪口、真偽不明の噂 | 投稿の文言、対象が特定できるか、公開の範囲 | 摘示された事実が真実か、公共の利害に関わるか |
| プライバシー(情報) | 氏名・住所・電話番号・勤務先などの書き込み | 情報が特定の個人を識別するか、投稿の目的 | 本人が公表してよいと認めたか |
| 商標権・その他 | 商標を使った偽ブランド品の出品、特定の名称の無断使用 | 商標登録の有無と指定商品・役務、投稿の用途 | 商標的使用に当たるか、正規品かどうか |
名誉毀損は刑法230条で3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、侮辱は同231条で1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料が定められています(2026年10月時点の現行規定)。
運営者に分からないことが残る場合の考え方は、権利の種類ごとに、民間団体が整理しています。プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会は、名誉毀損・プライバシー関係、著作権関係、商標権関係、発信者情報開示関係の4つのガイドラインを公表しており、総務省が案内しています。運営者は、これらの手順や様式を参考に、自社の窓口の入力欄や受付文書の雛形を組み立てられます。
「写り込んだ第三者」の申出は、とくに写真・動画を扱うサービスで起きやすい類型です。撮影した本人は風景や料理を撮ったつもりでも、背景に通行人や店員が写っていて、顔や服装から本人が識別できることがあります。さらに、位置情報(撮影地点の緯度経度)を共有ページの地図にそのまま表示するサービスでは、写り込んだ人の居場所まで分かります。このため規約には、公開前に利用者自身が写真の内容とピンの位置を確認する義務と、公開を停止する手順を置き、運営者が写り込んだ人からの申出を受けたときに、公開停止などの措置を取れるようにします。
この投稿を報告する
報告の理由をお選びください
自分が写っている、自分の情報が載っている
自分の作品・画像が無断で使われている
自分や他の人への誹謗中傷にあたる
その他の規約違反
権利の侵害の申出は、次の画面で、侵害されたとする権利と理由を入力してください。
権利侵害の申出へ進む
申出を受け付けた日時は、ご入力のメールアドレスにお知らせします。
誰でも押せる「報告」と、理由の記入が必要な「権利侵害の申出」を、画面で分ける例です。報告は件数の把握と規約違反の確認に、申出は3条2項2号の手順に使います。
運営者が自分の判断で削除・非表示にする基準と、異議申立て
権利を侵害されたという申出がなくても、運営者は規約に基づき、禁止事項に当たる投稿を削除できます。この権限には、二つの注意があります。一つは、「当社が不適切と判断した場合」という白地の定めだけに頼ると、削除を受けた利用者との間で、基準が争われやすいこと。もう一つは、民法548条の2第2項により、定型約款の中に、利用者の権利を狭めたり負担を重くしたりして、信義誠実の原則に照らして一方的に不利益を与える条項があれば、その条項は契約の内容にならないことです。運営者が裁量を持つこと自体が否定されるわけではありませんが、裁量の範囲は書き分けておくほうが、利用者への説明もしやすくなります。
削除の定めの改訂例
運営者の削除権限
運営者が削除できる事由を4類型に区切ることで、利用者に説明でき、削除の基準が恣意的でないことを示せる。
削除の理由
全面的に理由を開示しない形は、利用者が異議を述べる手段を奪う。事由の区分を示す程度の回答なら、運営者の負担も限られる。
通報への対応
通報の全件に結果を返す運用は現実的でない。権利侵害の申出だけを通知の対象とし、通報は確認の記録を残す形に分ける。
改訂前の欄は、規約の雛形やサービスの原案によくある定め方です。改訂後は、サービスの規模と運用の人数に合わせて、通知の範囲を絞ります。
削除を受けた利用者が、運営者の判断に不服がある場合の異議申立ての窓口も、規約に置いておきます。この窓口は、法律が必ず求めるものではありません。置く理由は、運営者の判断を見直す機会があることを示して、削除の定めが一方的でないと説明できるようにするためです。異議の受付期間(例えば削除の通知から30日)と、再審査の結果を伝える方法を決めておきます。再審査をするのは、最初に削除を判断した担当者とは別の人にするのが望ましいですが、小さな運営体制では、運営責任者が改めて判断する形でも構いません。
削除の定めと並べて置くのが、同じ内容の投稿を繰り返す利用者への対応です。削除したのに、同じ写真を別のアカウントで再投稿された場合、再投稿は新しい投稿として扱うのか、削除の理由が同じならすぐに非公開にしてよいのかを決めておかないと、担当者ごとの判断になります。アカウントの停止・退会の基準そのものはマッチング・C2Cプラットフォームの利用規約の「禁止行為と、アカウント停止の基準」で説明しているので、ここでは、削除と停止を別の手順にしておくことだけを確認しておきます。
発信者情報の開示請求に備える:ログ・手順・プライバシーポリシー
被害を受けたとする人が、投稿者に損害賠償を請求したり、発信者に対して削除や謝罪を求めたりするには、誰が投稿したのかを知る必要があります。そこで、5条は運営者に対する発信者情報の開示請求を認めています。開示の対象となる情報は、施行規則2条が定めており、氏名や住所、電話番号、メールアドレスのほか、投稿に係るIPアドレスとポート番号、携帯端末のインターネット接続サービス利用者識別符号、SIM識別番号、そして侵害情報が送信された年月日と時刻などです。ここで重要なのは、運営者が保有していない情報は開示できないという点です。ログを記録していなければ、請求を受けても、出せる情報がありません。
開示請求に備えて、運営者が決めておくこと
- 投稿時・会員登録時・ログイン時に、IPアドレスとタイムスタンプを記録しているか投稿時のIPアドレスと送信日時を記録していなければ、開示の対象になる情報がない。ログインの記録は、侵害関連通信に係る発信者情報(5条3項)として、請求の対象になり得る
- ログの保存期間は何か月か法律に保存期間の定めはない。短すぎると、開示請求や裁判所の手続が始まる前に消えてしまう。長すぎると、利用目的を超えた保有になる。目的と運用の負担を比べ、プライバシーポリシーに保存期間を書く
- 開示請求の受付先と、本人確認の方法は何か請求者が本当に被害を受けたとする人か、請求の書式が整っているかを確認しないまま情報を出すと、運営者が発信者に対して責任を問われる
- 投稿者に意見を聴く手段は何か6条1項は、連絡できない場合などの特別の事情を除き、発信者の意見を聴くことを義務付けている。メールアドレスの登録がなければ、連絡する方法がない
- 裁判所から保存を命じられたときに、消去を止められるか消去禁止命令(16条)を受けたら、手続の終了までログを消去してはならない。定期削除の仕組みを、個別の投稿者のログだけ止められるようにしておく
回答は、サービスの仕様と運用の担当者の人数に合わせて決めます。
開示請求を受けたときの運営者の流れは、次のとおりです。運営者は、請求者から書面で請求を受けると、請求の内容と要件(権利侵害が明らかであること、開示を受ける正当な理由があること)を検討し、発信者の意見を聴きます。運営者が任意に開示に応じることもできますが、権利侵害が明らかかどうかの判断は難しいため、運営者の方針として、8条の発信者情報開示命令を待ち、その命令に従って開示する形を取ることもあります。開示請求に応じなかったことによって請求者に生じた損害については、運営者は、故意または重大な過失がなければ責任を負いません(6条4項)。開示を受けた人は、その情報をみだりに用いて発信者の名誉や生活の平穏を害してはならない義務を負います(7条)。
発信者情報の開示請求を受けたときの流れ
利用者・相手方 運営者 外部の事業者・行政 問題になりやすい点
規約・プライバシーポリシー・受付手順書には、この流れの各段階で、誰が何を記録するかを書き込みます。
プライバシーポリシーの側にも、書くべきことがあります。第一に、ログ(IPアドレス、タイムスタンプ、端末情報)を取得する旨と、その利用目的に、権利侵害への対応と発信者情報の開示請求への対応を加えることです。利用目的は、できる限り特定しなければならない(個人情報保護法17条1項)ため、「サービス向上のため」とだけ書いてあるポリシーでは、開示請求に備えた保存の目的が読み取れません。第二に、第三者提供の同意の例外として、「法令に基づく場合」(同法27条1項1号)に、発信者情報の開示請求や裁判所の命令に応じる場合を含めることです。事務所の書類では、匿名の掲示板アプリの規約で、運営者が発信者情報の開示請求の要件が満たされたと判断した場合に、その請求の範囲内で情報を開示する旨を定めました。第三に、保存期間です。
投稿者の側から、「ログを消してほしい」という請求を受けることもあります。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、匿名で投稿した人が、発信者情報開示請求による特定や損害賠償請求を免れるために、プロバイダの保有する接続認証ログ等の利用停止等を請求する場合を、本人の権利または正当な利益が害されるおそれがないとして、利用停止等が認められないと考えられる事例の一つに挙げています(個人情報保護法35条5項に関する部分)。ログの保存目的に権利侵害への対応を明記しておくと、この請求を断る理由を、プライバシーポリシーの記載と結び付けて説明できます。外部のクラウドにログを保存している場合の整理は個人情報の第三者提供と、海外のクラウド・SaaSを使うときの整理、保存期間そのものの決め方はアプリのプライバシーポリシーの書き方で説明しています。
口コミ・レビューを集めるサービス:店舗からの削除要請とやらせ投稿
飲食店や美容室などの口コミを集めるサービスでは、投稿の対象になった事業者(店舗)が、運営者に削除を求めてくることがよくあります。店舗にとって、低い評価の投稿は売上に直結するため、「事実と違う」「営業妨害だ」という要請が来ます。ここで運営者が最初に決めるのは、「批判的であること」と「違法であること」は別だという線引きです。実際に体験した人の感想として書かれた否定的な評価は、それだけでは削除の理由になりません。一方、実際には来店していない人の投稿、競合店による書き込み、店舗名の誤りで別の店の評価が載った場合などは、削除や修正の対象になります。
店舗から削除を求められたときの判断
削除する
運営者が規約で定めた事由に当たる
- 実際の来店・利用がないことが確認できる
- 従業員の個人名・顔写真など、個人情報が書かれている
- 店舗が示した事実の誤り(定休日、店名違い)が明らかで、訂正の申出もある
投稿者に照会する
事実か感想か判断がつかない
- 店舗が示す「事実と違う」点が、投稿のどの部分か特定できる
- 投稿者に説明を求める期間(例:7日)を設ける
- 回答がなければ、規約の定めに従い対応を決める
削除しない
感想・意見の範囲にとどまる
- 事実に基づく否定的な評価
- 店舗が気に入らないという理由だけの要請
- 返信欄で店舗側の説明を載せられる機能で対応する
店舗に返信欄を提供するなら、返信の内容も運営者の規約の対象にします。店舗側が口コミの投稿者を特定しようとする書き込みなどは、禁止事項にします。
次に、運営者自身がやらせ投稿を禁止することです。口コミサイトの運営者は、自らが店舗の宣伝をするわけではないため、景品表示法5条3号に基づく告示の直接の対象になるとは限りませんが、サイトの信頼を保つため、規約で次のような投稿を禁止するのが一般的です。店舗の関係者や、金銭・割引と引換えに依頼された人による投稿、実際に利用していない人の投稿、競合店への低評価の投稿です。
ステルスマーケティング規制の根拠
- 景品表示法5条3号内閣総理大臣が指定する、一般消費者に誤認されるおそれのある表示を禁止する
- 令和5年内閣府告示第19号事業者の表示であることが一般の消費者に分かりにくい表示を指定(いわゆるステマ告示)。2023年10月1日施行
- 運用基準(令和5年3月28日消費者庁長官決定)事業者が第三者の表示内容の決定に関与しているかで、事業者の表示かどうかを判断する。口コミサイト上で自らの商品・役務について第三者に表示させる場合や、競合の商品・役務について低い評価を第三者に表示させる場合を例に挙げる
運用基準は、購入者が投稿の謝礼としてクーポンなどを受け取る場合でも、事業者と購入者の間で投稿内容についての情報のやり取りが一切なく、購入者が自主的に内容を決めたと認められるときは、事業者の表示にならないとしています。
この運用基準が示す考え方は、運営者の規約にも使えます。レビューの投稿に対して、運営者がポイントやクーポンを付与する仕組みのとき、付与の条件に「星5つを付ける」や「推奨する内容を書く」を含めると、内容を運営者や店舗が決めたことになります。そのため、規約の特典の条には、「ポイントの付与は、評価の高低や内容を条件としない」と書き、画面の説明文もそれに合わせます。同じ運用基準は、店舗が購入者の投稿に誤記があると気付いて修正を依頼しただけでは、購入者の投稿は事業者の表示にならないとも書いています。店舗から削除の要請が来たときも、投稿の誤りの修正依頼を橋渡しすることは、この範囲に入ります。
最近は、アンケートに答えると口コミ文をAIが自動で作るサービスも出ています。AIが下書きを作ること自体は問題ではありませんが、サービスの利用者(店舗)が、AIに「好意的な内容にする」と指示し、その文章を第三者の口コミのように投稿する仕組みでは、店舗が内容を決めた表示になる、と整理する必要があります。事務所は、そのようなサービスの規約を確認したとき、表示の責任を利用者(店舗)が負う旨と、口コミを投稿するサイト側の規約(たとえば大手の地図サービスのレビューに関するポリシー)に違反しない使い方に限定する旨を定めました。
起きがちなこと
よくあるご質問
小さなアプリでも、削除申出の窓口は置く必要がありますか。
法律が、小さなサービスに窓口の設置を義務付けているわけではありません。ただし、権利を侵害されたとする人から申出があり、運営者が投稿者に削除への同意を照会して7日が過ぎれば、削除による投稿者への賠償責任を免れる規定(3条2項2号)があり、これを使うには申出の中身が運営者に伝わっていなければなりません。規約に窓口と必要事項を書いておくのが現実的です。
投稿者に照会する7日は、必ず待たなければなりませんか。
待たなければならないという決まりはありません。3条2項2号は、照会から7日を経過しても同意しない旨の申出がなかったときの免責の要件です。明らかに権利を侵害している投稿は、1号の「権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由」を根拠に、規約に定めたうえで先に非公開にする運用もあります。私事性的画像記録は、別の法律で照会の期間が2日になります。
発信者情報の開示請求を受けたら、すぐ応じてよいですか。
運営者は、請求の要件(権利侵害が明らかであること、開示を受ける正当な理由があること)を確認し、原則として発信者の意見を聴いてから判断します(6条1項)。応じなかったことで請求者に生じた損害は、故意または重大な過失がない限り賠償責任を負いません(6条4項)。運営者の方針として、裁判所の開示命令を待って対応することもあります。
IPアドレスのログは、どのくらい保存すればよいですか。
法律に保存期間の定めはありません。サービスの規模、運用の負担、ログに含まれる個人情報の量を踏まえて運営者が決め、プライバシーポリシーに利用目的と保存期間を書きます。短すぎると開示請求に備えられず、長すぎると利用目的を超えた保有になります。
口コミの投稿にクーポンを付けると、ステマ規制に触れますか。
消費者庁の運用基準は、クーポンなどの謝礼があっても、事業者と投稿者の間で投稿内容についてのやり取りが一切なく、投稿者が自主的に内容を決めたと認められるときは、事業者の表示にならないとしています。評価の高低や特定の内容を条件にする設計は避け、画面の説明もそれに合わせます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別のサービスに必要な対応は、提供する機能、取得するデータ、料金の受け取り方、利用者の範囲によって異なります。事務所の書類での扱いとして紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたアプリ・Webサービス・プラットフォーム・ホームページの利用規約、プライバシーポリシー、特定商取引法に基づく表記、業務委託契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文・ガイドラインは e-Gov法令検索と各官公庁の公表資料で確認しています(最終確認日:2026年10月18日)。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会 / 総務省 / 消費者庁 / 金融庁 / 観光庁