このページの要点
- 請負は仕事の完成に対して報酬を払う契約(民法632条)、準委任は事務の処理を委託する契約(同法656条)。工程ごとにどちらかを決め、報酬の支払条件をそれに合わせる。
- 検収は、検査の期間・基準・通知がない場合のみなし合格まで決める。契約不適合の通知期間は、民法の原則(知った時から1年以内)と異なる定めにするならその旨を書く。
- 著作権を移転するなら、著作権法27条・28条の権利も含めて移転する旨を明記し(同法61条2項)、著作者人格権を行使しない旨を定める。
- 個人のエンジニアに委託するなら、フリーランス法の取引条件の明示(3条)の対象になる。発注者が従業員を使用していれば支払期日(4条)、1か月以上の委託なら禁止行為(5条)も守る。
請負か準委任かは、題名ではなく約束の中身で決まる
| 請負 | 準委任 | |
|---|---|---|
| 約束の中心 | 仕事の完成(民法632条) | 事務の処理(民法656条・643条) |
| 報酬 | 完成した仕事の結果に対して支払う | 特約がなければ請求できない(648条1項)。履行割合型(648条3項)と成果完成型(648条の2)がある |
| 責任 | 契約の内容に適合しない場合の責任(契約不適合責任) | 善良な管理者の注意をもって処理する義務(644条) |
| 途中でやめる場合 | 注文者は、完成前ならいつでも損害を賠償して解除できる(641条) | 各当事者がいつでも解除できる。不利な時期の解除などは損害を賠償する(651条) |
「仕様を満たす成果物を納品し、満たすまで報酬は支払わない」という契約は、題名が業務委託契約書でも、請負の内容です。反対に、準委任のつもりの契約書に「成果物」「納品」「検収」という言葉を多く使うと、請負と解釈されるおそれがあります。基本契約で請負と準委任の両方の型を用意し、個別の契約でどちらかを確定する設計が、一般的なモデル契約の考え方に沿った形です。「個別契約に記載がなければ準委任とみなす」と定めることもできますが、注文書の様式に型の記入欄を設けて、毎回明示する運用をおすすめしています。
工程ごとに契約を分ける
アプリやAIの開発の初期は、要件も、仕様も、費用も確定していません。その段階で全体の完成と金額を約束する請負の契約を結ぶと、受注側に大きな危険が残ります。基本契約に共通のルール(秘密保持、知的財産、再委託、責任の上限、個人情報、反社会的勢力の排除、個別契約の成立の方法)を置き、工程ごとに個別の契約を結ぶ形にします。
工程ごとの契約の型の例
要件の整理・要件定義
準委任。完了したら、開発の見積りを出し直し、発注するかどうかを決めます。発注しない場合の要件定義書の使い方も決めておきます。
PoC(実証実験)
準委任。検証する事項と、検証の結果を何に使うかを決めます。
設計・開発・テスト
仕様が確定した後の請負。仕様書と検収の基準を別紙にします。
導入・移行
請負又は準委任。
保守・運用
準委任。保守の範囲と、範囲外の作業の扱いを決めます。
契約を結ぶ前に作業に着手してしまうこともよくあります。準委任では、特約がなければ報酬を請求できません。着手の前に、少額・短期の準委任の個別契約を切り出すか、それができなければ、作業の範囲、費用の精算、契約が成立しなかった場合の扱い、権利の帰属を書面にし、相手方の承諾をメールなどで残しておきます。企画・提案の段階から受注側に一定の検証・説明の義務があるとしたうえで、最終合意の時点で、開発費用・範囲・期間の抜本的な見直しや開発中止の要否を説明し、発注者の適切な判断を促さなかったことを、プロジェクトマネジメントの義務の違反とした裁判例もあります(東京高等裁判所平成25年9月26日判決)。
仕様の変更と、検収
仕様の変更は、変更の申入れ、影響(費用・納期)の見積り、合意の書面化、という手順を契約で決めます。口頭の変更が積み重なると、どこまでが当初の仕様だったのかが分からなくなります。
検収は、次の点まで決めます。
- 検査の期間の上限と、検査の基準(仕様書)
- 不合格の通知に、具体的な理由を書くこと
- 期間内に通知がない場合は合格とみなすこと(みなし検収)
- 検収の後に見つかった不具合の扱い(契約不適合責任)
契約不適合責任について、民法の原則は、注文者が不適合を知った時から1年以内に通知しなければ権利を失うというものです(民法637条1項)。この1年の期間は、受託者が引渡しの時に不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかった場合には適用されません(同条2項)。事業者間で期間を短くする特約を置いても、受託者が知りながら告げなかった不適合については責任を免れません(民法559条・572条)。期間の起算点を「業務の開始日」にすると、検収の前に期間が過ぎてしまうことがあるので注意します。注文者が提供した資料や指示によって生じた不適合は、受託者の責任の対象外とするのが原則です(民法636条。受託者が不適当であることを知りながら告げなかった場合を除く)。古い契約書に残っている「瑕疵担保」という言葉は、「契約不適合」に改めます。
途中で終わる場合の精算
請負の注文者が完成前に解除する場合(民法641条)、受託者は、実施済みの部分の対価と発生した費用に加え、未実施部分の得られたはずの利益(節約できた費用を除く)まで請求できる、と考えられています。システム開発の基本契約の作成例では、これを損害賠償ではなく「中途終了に伴う精算」と位置づけ、賠償の上限の対象外にしました。反対に、受注側の契約書のひな形が中途解約の精算を「出来高と実費」に限っていると、本来請求できる利益を自ら放棄することになります。準委任の中途解約は、予告の期間と、履行の割合に応じた報酬(648条3項)を定めます。
著作権の帰属と、著作者人格権
成果物の著作権を発注者に移す場合は、「著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)を譲渡する」と特に書きます。この二つの権利(翻案権などと、二次的著作物の利用に関する権利)が譲渡の目的として特掲されていないと、譲渡した者に留保されたものと推定されるからです(著作権法61条2項)。著作者人格権は譲渡できないため(同法59条)、受託者が著作者人格権を行使しないことを定めます。
事務所の改訂例:著作権と支払(依頼者との協議・依頼者の下書きからの改訂)
| 受託者の立場での著作権 | |
|---|---|
| 改訂前成果物の著作権は、検収の完了をもって発注者に移転します。 | 改訂後成果物の著作権は受託者に帰属し、受託者は発注者に対し、本件の目的の範囲内で成果物を利用する非独占的な権利(複製、公衆送信、改変を含む。)を許諾します。発注者は、この権利を第三者に再許諾し、又は譲渡することはできません。 |
| 受託者(依頼者)の立場に合わせて、権利の移転ではなく利用の許諾の形に改めました。支払期日も「別途協議」から納品月の末日締め翌月末日払いに確定させました。 | |
| 移転の時期 | |
| 改訂前成果物の著作権は、納品と同時に発注者に移転します。 | 改訂後成果物の著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含みます。)は、発注者が報酬の全額を支払った時に、受託者から発注者に移転します。 |
| 移転の時期を報酬の全額の支払時にすると、代金の回収の担保になります。それまでの発注者の利用の権限も定めておきます。 | |
| 賠償の範囲の除外 | |
| 改訂前受託者は、逸失利益、間接損害及び特別損害について責任を負いません。(故意・重過失の除外の定めは上限の条にだけある) | 改訂後前項の定めは、受託者の故意又は重大な過失による場合には適用しません。 |
| 上限の金額には故意・重過失の手当てがあっても、範囲の除外の側にただし書がないと、その部分の効力が不安定になります。 | |
受託者が持っている既存のライブラリやノウハウ、学習済みのモデルは、受託者に留保し、成果物の利用に必要な範囲で利用を許諾する形が一般的です。オープンソースのソフトウェアを使う場合は、そのライセンスの条件を守る責任と、発注者に知らせる方法を定めます。個人の事業者として開発した後に法人を作った受託者と保守契約を結ぶ場合などは、個人から法人へ著作権が移っているかを確認しないと、法人から発注者へ権利を移せないことがあります。
保守・運用の契約
- 保守の範囲:保守の対象外の作業(新しい機能の追加、仕様の変更、外部サービスの利用料、現地での作業、時間外の対応など)を列挙します。
- 前払いの保守料:数か月分を前払いで受け取りながら「期間の途中で終了しても返還しない」と定めると、受託者の責任で解除された場合まで未提供分を保持できると読めてしまいます。受託者の責めによる解除の場合は、未提供の期間分を返還するただし書を置きます。
- 料金の改定:「当初の想定を著しく超えたとき」に改定できるとするなら、その基準を、月の件数や時間の上限を使って定義します。
- 開発の契約との関係:開発の契約の上限と保守の契約の上限が、どちらも「本契約に関連する一切の損害」に及ぶと、どちらが適用されるのか決まりません。適用の範囲を切り分けます。
- 終了時の引継ぎ:ソースコードの引渡し、管理者の権限の返還、データの移行への協力を定めます。
PoC(実証実験)の覚書
無償で実証実験を行う場合も、検証する事項、期間、商用の提供ではないこと、試験版であることを書面にします。試験版であることを理由に責任を限定する場合も、個人情報の取扱いと秘密保持の違反は、免責の対象から除いておきます。参加者の個人情報を扱う場合は、誰がどの時点で取得し、何に使うのか(製品の開発目的なら委託ではない)、報告は個人が推知されない統計の形にすること、参加しないことを理由に不利益に扱わないことを定めます。参加者から寄せられた意見は、実施する側が改善や開発に利用できることも書いておきます。
エンジニアへの業務委託と、取適法・フリーランス法
個人のエンジニアや、代表者以外に役員がおらず従業員を使用しない法人に開発を委託する場合は、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の対象になります。委託の都度、業務の内容、報酬の額、支払期日などの取引条件を書面や電子メールなどで明示し(同法3条)、従業員を使用する発注者であれば、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めます(同法4条)。1か月以上の業務委託では、受領の拒否、報酬の減額、不当なやり直しなどが禁止されます(同法5条)。6か月以上の継続的な業務委託を解除する場合などは、30日前までの予告が必要です(同法16条)。「1か月前」の予告は、月によって30日に満たないことがあります。
発注者と受託者の資本金又は常時使用する従業員の数によっては、取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)の対象にもなります。プログラムの作成は「情報成果物作成委託」に当たり、発注の内容の明示、受領から60日以内の支払、減額や受領拒否などの禁止のルールがかかります。仕様が確定しないことを理由に、発注の内容を一切明示しないことは認められません。
ご相談でよく聞かれること:発注側の契約で決めたこと
Q業務の自動化を外部のAIエンジニアに頼みます。契約で特に決めておくことはありますか。
A外部のAIサービスや業務用SaaSのアカウントとAPIキーは、すべて発注者の名義で取得・管理し、受託者には必要最小限の権限だけを与えることにしました。外部のAIへのデータの送信は承諾しつつ、見積り・原価・顧客情報のような営業秘密は学習させないこと、個人情報は送信の対象から除くことも定めました。成果物には、プロンプトやワークフローの設定まで含めています。
Q客先に常駐して開発してもらう形です。注意することはありますか。
A準委任で常駐してもらう場合、発注者が受託者の担当者に日々の作業を直接指示すると、偽装請負の問題になります。指示は受託者側の責任者を通じて行い、勤務時間や休暇を発注者が管理しないことを契約と運用の両方で守ります。
秘密保持契約は、開発の打診の段階から結んでおきます。独立した書類として使う秘密保持契約は、他の契約書の条番号を引用せず、その1通で完結させます。開発で使う外部のAIへの入力を、入力してよいもの、学習に使われない設定に限って入力してよいもの、入力してはいけないもの、の三つに分ける条項を置いた例もあります。開発したアプリの利用規約は利用規約の作り方のページ、売上を分け合う形の契約はレベニューシェア契約のページ、AIサービスの規約はAI・APIの利用規約のページで扱っています。
公開前のチェック:開発委託契約
- 工程ごとに、請負か準委任かを決めた
- 仕様の変更の手順と、検収の期間・基準・みなし検収を決めた
- 契約不適合の通知期間と起算点を決めた
- 途中で終わる場合の精算を、賠償と分けて定めた
- 著作権の譲渡に27条・28条の権利を特掲し、著作者人格権の不行使を定めた
- 既存の資産とオープンソースの扱いを定めた
- 賠償の範囲の除外にも、故意・重過失のただし書を置いた
- フリーランス法・取適法の対象かを確認し、取引条件の明示と支払期日を整えた
よくあるご質問
アプリ開発の契約は、請負と準委任のどちらにすべきですか?
仕様が確定し、完成させるものがはっきりしている工程は請負、要件の整理やPoC、保守のように完成を約束しにくい工程は準委任が向いています。基本契約で両方の型を用意し、工程ごとの個別契約でどちらかを明示する形がおすすめです。
「著作権は発注者に帰属する」と書けば十分ですか?
著作権を譲渡する場合は、著作権法27条(翻案権など)と28条(二次的著作物の利用に関する権利)を譲渡の目的として特に書かないと、これらは譲渡した者に留保されたものと推定されます(同法61条2項)。著作者人格権は譲渡できないので、行使しない旨もあわせて定めます。
検収で不合格の通知がないまま期間が過ぎたら、どうなりますか?
契約に、期間内に通知がない場合は合格とみなす定め(みなし検収)があれば、合格したものとして扱われます。定めがないと、完成と支払の時期をめぐって争いになりやすいので、検査の期間とみなし検収を定めておきます。
個人のエンジニアに開発を頼む場合、どんな法律に注意すればよいですか?
フリーランス法の対象になり、取引条件の明示(3条)が必要です。従業員を使用する発注者であれば、受領から60日以内の支払期日の設定(4条)、1か月以上の委託での禁止行為(5条)なども守る必要があります。資本金又は従業員の数によっては取適法の対象にもなります。
保守契約で、前払いの保守料を返さないと定めてもよいですか?
発注者側の都合で終了する場合に返還しないと定めることはできますが、受託者の責めによって解除された場合まで返還しないとするのは、不当利得の争いを招きます。受託者の責めによる解除の場合は、未提供の期間に対応する部分を返還する定めを置きます。
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