センシティブな情報を扱うアプリのプライバシーポリシーの書き方

健康、メンタル、顔、子ども、性的指向。法律が特別に扱う情報と、法律の列挙にはなくても慎重に扱う情報を分け、取得の入口に同意と注意書きを置きます。

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「利用したら全部に同意したものとみなす」と書いたポリシーは、健康情報の取得に必要な同意を、誰が何に与えたのか分からなくします。

このページの要点

  • 要配慮個人情報は、病歴、障害(発達障害を含む)、健康診断の結果、診療・調剤・保健指導を受けたことなど。取得に事前の同意が要り(20条2項)、オプトアウトによる第三者提供はできない。
  • 性的指向・性自認は法令の列挙にないが、公開や漏えいの被害が大きい。項目を任意にし、公開範囲を項目ごとに選ばせ、初期値は非公開にする。
  • 顔の特徴を識別のために変換したデータは個人識別符号。目的を限り、識別できない形に変換した情報だけを学習に使う。令和8年の改正で、特定生体個人情報の規律が加わる(施行予定)。
  • 子どもは、12歳から15歳以下で法定代理人の同意が目安(Q&A 1-62)。令和8年の改正で16歳未満が基準になる(施行予定)。外国のAIに送るときは、取得の同意と外国提供の同意を分ける。

最初に結論:センシティブな情報は「法律上の要配慮個人情報」と「それに準じて慎重に扱う情報」の二段で整理し、取得の入口に同意と注意書きを置く

結論

「センシティブ」「機微」は法律の用語ではありません。個人情報保護法が特別に扱うのは、要配慮個人情報(2条3項、施行令2条、施行規則5条)です。病歴、発達障害を含む障害、健康診断の結果、診療・調剤・保健指導を受けたこと、犯罪の被害などがこれに当たり、取得にはあらかじめ本人の同意が必要で(20条2項)、オプトアウトによる第三者提供はできません(27条2項ただし書)。性的指向・性自認は、法令の列挙にありませんが、公開や漏えいの被害が大きく、同じように慎重な設計が要ります。顔の特徴を識別のために変換したデータは個人識別符号です(施行令1条1号ロ)。子どもの情報は、個人情報保護委員会のQ&Aが12歳から15歳までの年齢以下では法定代理人の同意を要するとしており、令和8年の改正(令和8年法律第56号)で、16歳未満は同意や通知の相手が法定代理人になります(施行予定)。

健康、メンタル、子ども、顔認証、交流の場――センシティブな情報を扱うアプリのプライバシーポリシーは、一般のアプリのひな形に数行を足すだけでは足りません。アトラス行政書士法人は、症状の入力と音声の文字起こしを外部のAIで処理する受診支援アプリ、感情の記録をAIで分析するセルフケアアプリ、顔認証で服薬確認を行う法人向けのサービス、保護者が子どもの特性を投稿するコミュニティ、性別や性的指向などをプロフィールに持つ交流アプリなどの規約とプライバシーポリシーを作成・点検してきました。このページは、そこで繰り返し出た論点を、情報の種類ごとに整理します。

アプリのプライバシーポリシー全体の組み立てはアプリのプライバシーポリシーの書き方、外国のクラウドやAIに送るときの基本は個人情報の第三者提供と、海外のクラウド・SaaSの整理で説明しています。ここでは、センシティブな情報に特有の部分に絞ります。

要配慮個人情報に当たる情報、当たらない情報

まず、手元の情報が要配慮個人情報に当たるかを、法令の列挙に当てはめて確かめます。2条3項は、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪の被害に遭った事実などを挙げ、施行令2条が、障害があること、健康診断等の結果、診療・調剤・保健指導を受けたこと、刑事手続を受けたこと、少年の保護事件の手続を受けたことを加えています。障害には発達障害が含まれ(施行規則5条3号)、障害福祉サービスを受けていることのように、障害があることを特定させる情報も該当するとされています(ガイドライン通則編2-3)。

アプリの情報と、要配慮個人情報への当てはめ

情報要配慮個人情報か根拠・考え方アプリでの典型
特定の病気にかかっているという情報(病歴)当たる2条3項、通則編2-3持病の入力欄、症状の記録
発達障害、精神障害、身体障害があること当たる施行令2条1号、施行規則5条保護者が投稿する子どもの特性
健康診断等の検査の結果当たる施行令2条2号検査結果の取込み
医師等による診療、調剤、保健指導を受けたこと当たる施行令2条3号受診の記録、服薬の記録
犯罪により害を被った事実、刑事手続を受けたこと当たる2条3項、施行令2条4号相談サービスの自由記述
身長、体重、血圧、体温(診療等の事業と関係のない方法で知り得たもの)当たらない通則編2-3の注。診療等の事業に関する業務と無関係な方法で知り得た場合は該当しない運動・食事管理アプリの記録
気分や感情の記録、悩みの書き込み内容による精神疾患の診断を受けた旨などが書かれれば、病歴や障害に当たる日記アプリ、セルフケアアプリ
性的指向・性自認法令の列挙にはない2条3項と施行令2条に掲げられていない。慎重な設計は別に要る交流アプリのプロフィール
位置情報から病院や宗教施設の訪問が推測される情報推知にとどまれば当たらない要配慮個人情報を推知させる情報にすぎないものは含まない(通則編2-3)移動の記録アプリ
顔写真、顔の特徴を変換したデータそれだけでは要配慮個人情報ではない顔写真は、特定の個人を識別できれば個人情報。外見上明らかな障害が写っているなど、要配慮個人情報が確定的に分かる場合は別(通則編2-3)。顔の特徴を識別のために変換したデータは個人識別符号(施行令1条1号ロ)本人確認、顔認証

「当たらない」は、慎重に扱わなくてよいという意味ではありません。推知にとどまる情報や、列挙にない情報でも、漏えいや目的外の利用が起きたときの被害は大きく、取得の目的を絞る、公開範囲を選ばせる、といった設計は同じように必要です。

ポリシーの書き方でも、法令の用語は区別して使います。「個人情報には、利用者の感情・思考・心理状態等のセンシティブ情報を含みます」と書く案は、法令上の個人情報と、法令に列挙されていない情報を一文に混ぜ、どこから要配慮個人情報なのかを曖昧にします。事務所の書類では、「要配慮個人情報」は法令の定義どおりに使い、それに当たらないが慎重に扱う情報は、別に「センシティブな情報として慎重に取り扱う」と書き分けました。

用語の整理を改める例

個人情報の定義

改訂前「個人情報」には、個人情報保護法に定める個人情報および、利用者の感情・思考・心理状態等のセンシティブ情報を含みます。
改訂後「個人情報」は、個人情報保護法に定めるものをいいます。そのうち、病歴など法令が定める要配慮個人情報については、取得する前に同意をいただきます。法令の定義に当たらない感情や思考の記録も、センシティブな情報として慎重に取り扱います。

法令の用語と、事業者の自主的な方針を混ぜない。どの情報に同意を取るのかが読み取れるようにする

サービス全体の同意

改訂前本サービスを利用した場合、利用者は本ポリシーの全条項に同意したものとみなします。
改訂後症状などの健康に関する情報を取得することへの同意は、入力の前に、別のチェック欄で取ります。

要配慮個人情報の取得の同意(20条2項)は、誰が何に同意したかが分かる形で取る。利用開始のみなし同意では足りない

改訂前の欄は、一般的なひな形に多い書きぶりです。

取得の入口:同意の取り方と、入力欄の注意書き

要配慮個人情報は、あらかじめ本人の同意を得なければ取得できません(20条2項)。ガイドライン(通則編3-3-2)は、書面や口頭などで本人から適正に直接取得する場合、本人が自ら情報を差し出したこと自体が、取得への同意を示すものと受け取れるとしています。症状の入力欄に本人が自ら書く構成であれば、取得の同意そのものは整理しやすいといえます。

難しくなるのは、次の四つの場面です。

  1. 本人以外の情報が入る欄。子ども、家族、診察した医師などの情報は、入力する人は本人ではありません。入力者に必要な同意を得る責任を負わせる条項と、画面上の注意書きが要ります。
  2. 取得を想定していない自由記述欄。運営者が取得するつもりがなくても、利用者が書き込めば、結果として保有することになります。
  3. 他の事業者に流す場面。要配慮個人情報の第三者提供には原則として本人の同意が必要で、オプトアウトによる提供は認められません(27条2項ただし書)。
  4. 外国の事業者に送る場面。外国にある第三者への提供の同意(28条)は、要配慮個人情報の取得の同意とは別のものです。後の節で扱います。
画面の見本:症状の入力画面(取得の同意と注意書き)

症状のご入力

受診の相談に使う情報(症状、服用中のお薬、気になる点)を入力してください。

症状など健康に関する情報(要配慮個人情報)を、相談の目的で取得し、外部の処理サービスに送信することに同意します

取扱いの詳細(外国にある事業者への送信を含む)

同意して入力する

ご自身以外の方の情報は、その方の同意を得たうえで入力してください。

同意の対象を「何を」「何のために」「どこへ」まで書き、サービス全体の利用規約への同意とは別の欄にします。

取得と責任の分担を、条文で具体にする例

自由記述欄の注意書き

改訂前名前など個人が分かることは書かないでね。
改訂後名前、学校名、勤務先、SNSのアカウントなど個人が分かる情報や、健康状態、病歴などデリケートな情報は、書かないでください。

具体例を示して、意図しない取得を減らす。ポリシー側にも「要配慮個人情報の取得を目的としていません」と書く

データを保持しない旨の表示

改訂前運営者は、利用者のデータを一切保持しません。
改訂後運営者のサーバーには保存しません。ただし、処理のために外部のサービスへ送信し、一時的に処理されることがあります。

外部送信がある以上、「どこにも保存されない」と読める断定は、利用者の誤認を招く

第三者を録音する場面

改訂前録音の際は、相手の方に十分ご注意ください。
改訂後利用者は、自己の責任で必要な同意を得る。違反により生じた紛争は、利用者が解決する。

注意喚起にとどまらず、責任の所在を規約で定める

改訂前の欄は、利用者向けの案内として一般に書かれる文面です。受診の相談や録音の機能を持つアプリの点検で、最も修正が多かった箇所でした。

漏えい等が起きたときの報告の対象(施行規則7条・法26条)

  • 施行規則7条1号要配慮個人情報が含まれる個人データの漏えい、滅失、毀損、またはそのおそれ。高度な暗号化その他の措置を講じたものを除く。人数の下限はない
  • 同条2号〜4号不正に利用されると財産的被害が生じるおそれがあるもの、不正の目的による行為によるもの、本人の数が1,000人を超えるもの
  • 個人情報保護法26条個人情報保護委員会への報告と、本人への通知。通知が困難な場合は代替の措置

要配慮個人情報を扱うアプリは、少数の漏えいでも報告の対象になります。保存時の暗号化や、アクセス権限の設計が、報告の要否にかかわります。

顔画像・顔特徴データ・生体情報

顔に関する情報は、三つに分けて考えます。顔写真そのもの、顔の特徴を識別のために変換したデータ、そして特定の個人との対応関係をなくした形の情報です。

顔に関する三つの情報

顔写真・顔画像

撮影された画像そのもの

  • 特定の個人を識別できれば個人情報
  • それだけでは要配慮個人情報ではない(推知にとどまる場合)
  • 利用目的は、本人が予測できる程度に具体的に特定する(Q&A 1-14は顔識別カメラについて、この程度を求める)

顔特徴データ

顔の骨格、皮膚の色、目鼻口の位置や形状で定まる容貌を、識別のために変換した符号

  • 個人識別符号であり、それだけで個人情報(施行令1条1号ロ、施行規則2条)
  • 目的を本人確認などに限り、保持の期間を最小にする
  • 令和8年の改正で、特定生体個人情報として周知義務などが加わる(施行予定)

識別できない形に変換した情報

精度向上や統計に使う情報

  • 特定の個人との対応関係が排斥されていれば、個人情報に当たらない(統計情報はQ&A 1-17、学習済みパラメータはQ&A 1-8)
  • 変換の方法と、元のデータを復元できないことを確かめる
  • 変換の前の段階の取扱いには個人情報保護法がかかる

事務所が作成・点検した、顔認証で服薬確認を行うサービスのプライバシーポリシーでは、顔認証データについて次のように書き分けました。目的は本人確認に限る。保持は目的の達成に必要な最小限の期間にとどめ、達成後は速やかに削除するか、復元できない形式に加工する。精度向上のための機械学習には、個人を識別できない形式に変換した情報だけを用い、生体情報そのものを再利用しない。健康情報などの要配慮個人情報は、書面(電磁的記録を含む)による同意を得て取得する。法人や施設が利用する場合は、委託を受けた者として、委託元の指示の範囲で取り扱い、開示等の請求は原則として委託元を通じて対応する。

令和8年の改正は、顔特徴データ等を「特定生体個人情報」として規律します。新しい21条の2は、特定生体個人情報を取り扱うときに、事業者の名称・住所・代表者の氏名、取り扱うこと、利用目的、元になる身体の特徴の内容、開示等の請求の手続などを、あらかじめ本人に通知するか、本人が容易に知り得る状態に置くことを求めます。27条2項ただし書は、特定生体個人情報についても、オプトアウトによる第三者提供を認めない旨に改められます。対象となる範囲は政令で定められます。改正の本体は、公布(令和8年7月17日)から2年を超えない範囲で政令が定める日(遅くとも令和10年7月16日まで)に施行される予定で、2026年10月時点では施行されていません。いま作る書類は、現行の規定に沿って書き、施行日が決まった時点で周知事項を足せるよう、取得する生体情報の項目と利用目的を台帳にしておくのが現実的です。

子どもの情報:年齢の線引きと、保護者が入力する構造

個人情報保護法に、同意ができる年齢の定めは、いまのところありません。ガイドライン(通則編2-16)は、同意の結果を判断できる能力がない未成年者は、親権者や法定代理人などから同意を得る必要があるとし、Q&A(Q1-62)は、一般的には12歳から15歳までの年齢以下の子どもについて、法定代理人等の同意が必要と考えられるとしています。個別の事情、情報の種類、事業の性質で判断するため、「13歳以上なら自分で同意できる」のような線引きは、日本法の基準ではありません。13歳という数字は、米国の子どものオンラインプライバシー保護の法律の基準に由来するものです。

令和8年の改正で、この年齢が16歳に明文化されます。新しい40条の2は、本人が16歳未満のとき、同意の取得や通知に関する規定の「本人」を「本人の法定代理人」と読み替えます。本人が16歳未満であることを事業者が知らないことに正当な理由がある場合、法定代理人が本人の営業を許可していた場合、本人に法定代理人がいない場合は、対象外です。利用停止等の請求の要件の緩和(35条9項・10項)や、未成年者の最善の利益を優先して考慮する責務も設けられます。これも施行は令和10年7月16日までの政令で定める日で、2026年10月時点では施行前です。

保護者が子どもの情報を入力するときの整理

情報本人提供する人同意・権限の整理
保護者の連絡先、ログイン情報保護者保護者利用者として規約とポリシーに同意する
子どもの性格、特性、学校生活の様子、症状子ども保護者(親権者等として)親権者等の権限で提供する旨を明記する。発達に関する情報など、要配慮個人情報に当たるものは、その取得への同意も取る
10代の本人が自分で入力する情報本人本人年齢に応じて法定代理人の同意が必要。令和8年の改正後は16歳未満が基準

保護者として使える人の範囲(親権者、未成年後見人のほか、祖父母や里親などを含めるか)は、規約とポリシーで一致させます。「保護者様ご自身の同意および保護者としての権限のもとで」のような一文は、誰が誰の情報について同意するのかが曖昧です。

年齢の設計は三つの型から選ぶ

16歳以上に限定する

登録時に年齢の確認欄を置く

  • 同意の構造が簡明で、運営の負担が小さい
  • 自己申告でも運用上は合理的。18歳未満などの誤登録が判明したときの削除・無効化の運用を決める
  • 子ども向けの機能は持てない

保護者の同意を取る

子どもの利用を認め、保護者の同意を確認する

  • 保護者のアカウントとの連携や、同意の記録が要る
  • 同意の確認方法を仕組みにする
  • 子ども本人の情報の取扱いを、保護者にも分かるよう説明する

保護者が入力し、子どもは使わない

子どもの情報を、保護者が親権者等として入力する

  • 子ども本人から直接は取得しない
  • 誰が何に同意するのかの書き分けが要る
  • 診断や助言の結果が、子どもの能力を確定的に評価するものではない旨を明記する

ストアの年齢区分や、データの申告で宣言する対象年齢は、規約の年齢方針とは別の問題です。申告と規約が食い違わないよう、同じ元の資料から作ります。

性的指向・性自認の情報と、アウティングの防止

性的指向や性自認は、法令が列挙する要配慮個人情報には含まれていません。しかし、本人の意思に反して知られれば、差別や偏見、人間関係の破壊といった深刻な被害につながります。法令の枠を超えて、設計で守る範囲です。事務所が点検した、同性間の交流アプリや、性的少数者向けのイベント・コミュニティのアプリでは、次の点が繰り返し指摘されました。

プロフィール項目と公開範囲の設計

  1. 項目を任意にする性別、性自認、性的指向などの項目は、答えなくても使えるようにし、「回答しない」を選べるようにします。
  2. 項目ごとに公開範囲を選ばせる初期値は非公開とし、他の利用者に見せる範囲を、項目ごとに利用者が選べるようにします。
  3. 検索、おすすめ、参加者の一覧への表示を決める名前や写真と結び付いて、意図しない場に表示されないかを確かめます。
  4. 他者の属性を伝える行為を禁止する他の利用者の性的指向、性自認、病歴などを、本人の同意なく第三者に伝える行為を、禁止事項に例として挙げます。
  5. 誤って公開された場合の対応を定める通報の窓口、確認、削除に努める期間、事案の記録を、規約と運用で決めます。
  6. 退会と削除の扱いを決める退会後に残る情報(法令で保存する情報など)と消える情報を書き分けます。

規約とプライバシーポリシーの役割は、分けて書きます。規約には、禁止事項、通報、利用制限、異議申立てを書き、運営者の裁量が広すぎないよう、判断の基準を示します。ポリシーには、利用目的の限定、保存の期間、削除の請求、第三者に開示しないこと、匿名性の確保を書きます。点検の際には、「プライバシーポリシーに従う」とだけ書かれた規約が指摘を受けました。連動する条文がなく、利用者の同意の方法や削除請求の権利が見えなくなるからです。

法人・施設に使わせるサービスと、外国のAI・クラウドに送るとき

法人や施設の利用者の情報を預かるときは、二つの立場を書き分ける

介護施設、保育園、医療機関、薬局などの法人に提供するサービスでは、利用者(施設に通う人)の要配慮個人情報を、サービスの運営者が預かることになります。このとき運営者は、多くの場合、法人の委託を受けて取り扱う立場です。委託により個人データである要配慮個人情報の提供を受けるときは、取得についての本人の同意は要りません(20条2項8号、施行令9条2号)。本人への説明と同意は、情報を取得する法人の側の役割です。一方で、同じサービスに個人向けのプランがあれば、その利用者の情報は運営者が自ら取得するため、運営者が同意を取ります。プライバシーポリシーは、この二つの立場を分けて書きます。

  • 法人の委託を受けて取り扱う情報:目的は「本サービスの提供」に限り、委託の範囲を超えて自社の目的に使わない(Q&A 7-38)。開示等の請求は原則として委託元の法人を通じて対応し、当方に直接届いたときは委託元に伝える
  • 運営者が自ら取得する情報:個人向けプランの利用者、問い合わせをした人、サイトの閲覧者。取得の同意、利用目的、開示等の手続を自社で担う
  • 他の事業者へ流す場面:マッチングや受入れ調整のように、入力された要配慮個人情報が別の事業者に渡るサービスでは、第三者提供の同意(27条1項)を誰が、いつ取るかを画面と規約で決める。運営者は、本人の同意を得ずに入力してはならないことを禁止事項に定め、入力者が同意を得たことの確認欄を置く

法人の側に、すべての利用者から外国への提供の同意を取り直してもらう設計は、現実的ではないことが多く、締結を躊躇させる条項になります。提供先が必要な体制を整備している場合は、同意に代わる方式があるため(28条1項・3項)、運営者が提供先の体制を確認し、継続的に措置を確保する方式を主に、同意方式を従に組み替える整理が実務にはあります。

外国のAI・クラウドにセンシティブな情報を送るとき

症状や音声、感情の記録を、外国の事業者が提供するAIに送って処理する構成は、28条の対象になりえます。外国かどうかは、サーバーの所在地ではなく、提供先の法人が所在する国で判断します(Q&A 12-11)。同意を得る際には、あらかじめ、外国の名称、その国の個人情報保護制度に関する情報、提供先が講じる保護措置に関する情報を、本人に提供します(28条2項、施行規則17条2項)。国名が特定できないときや、措置の情報を提供できないときは、その旨と理由を伝えます(同条3項・4項)。

  • 要配慮個人情報を送るときの同意は二重になる:取得への同意(20条2項)と、外国にある第三者への提供の同意(28条1項)。画面では、別のチェック欄に分けると、何に同意したかが明確になる
  • 委託として外国で取り扱わせる場合は、外的環境の把握が要る:委託先が所在する外国の制度を把握して安全管理措置を講じ、その国の名称と措置の内容を、本人の知り得る状態に置く(Q&A 10-24)
  • AI事業者が入力内容を学習に使うか:個人情報保護委員会は、令和5年6月2日の注意喚起で、個人データを含む入力が応答の出力以外の目的で取り扱われる場合は、法に違反することとなる可能性があるため、提供事業者が機械学習に利用しないこと等を確認するよう求めている。ポリシーには、自社が学習に使うか、外部のAI事業者が学習に使う可能性があるかを、分けて書く。学習の条項の書き方は利用者のデータを統計化・AI学習に使うときの規約とプライバシーポリシーと、AIサービス・APIの利用規約で決めておくことで整理しています
  • 「運営者は責任を負わない」で済ませない:外部の事業者による処理について一切の責任を負わないと書くより、選定の基準、学習に使われない設定の確認、委託先の監督を書くほうが、実態と法の要請に合う

センシティブな情報を扱うアプリの、設計前の問い

  1. 取得する情報のうち、法令の要配慮個人情報に当たるものはどれですか。同意を取る対象、漏えい時の報告の対象、第三者提供の可否が決まります。
  2. 本人以外(子ども、家族、診察した人)の情報が入る欄はありますか。入力者の責任、保護者として使える人の範囲、画面の注意書きを決めます。
  3. 自由記述欄はありますか。運営者や開発者は内容を閲覧しますか。意図しない取得を減らす注意書きと、閲覧権限の設計を決めます。
  4. 外部のAIやクラウドに送る情報は何ですか。提供先はどの国の事業者で、学習に使われますか。外国にある第三者への提供の整理、同意の取り方、学習の扱いの記載を決めます。
  5. 法人や施設に提供する形態はありますか。本人への説明と同意は誰が取りますか。委託を受ける立場と、自ら取得する立場を書き分けます。
  6. 利用できる年齢は何歳からですか。保護者の同意をどう確認しますか。年齢の設計の型を選び、規約・ポリシー・ストアの申告をそろえます。

起きがちなこと

センシティブな情報を扱うアプリでは、書類の文面よりも、画面と実装のほうが先に利用者の信頼を左右します。入力欄の注意書き、同意のチェック、公開範囲の初期値、削除のボタン。ポリシーの記載は、それらと同じ元の資料から作ります。令和8年の改正は、子どもと顔の情報について、段階的に規律を強めます。施行日が決まった段階で、周知事項や同意の相手を足せるよう、取得する情報の台帳を今から整えておく進め方が、手戻りの少ない方法です。利用規約・ポリシーの変更の手順もあわせて確認してください。

よくあるご質問

性的指向や性自認の情報は、要配慮個人情報に当たりますか。

個人情報保護法2条3項と施行令2条の列挙には、性的指向や性自認は掲げられていません。そのため法令上の要配慮個人情報ではありませんが、本人の意思に反して知られると被害が大きい情報です。取得を任意にする、公開範囲を項目ごとに選ばせて初期値を非公開にする、他の利用者の属性を第三者に伝える行為を禁止する、といった設計で守ります。

顔写真を保存するだけなら、要配慮個人情報にあたりますか。

顔写真は、特定の個人を識別できれば個人情報ですが、それだけでは要配慮個人情報ではありません(外見上明らかな障害が写っているなど、要配慮個人情報が確定的に分かる場合は別です。通則編2-3)。顔の骨格や目鼻口の位置・形状で定まる容貌を、識別のために変換した顔特徴データは、個人識別符号(施行令1条1号ロ)で、それだけで個人情報になります。令和8年の改正では、顔特徴データ等のうち政令で定めるものが特定生体個人情報として規律されます(施行予定)。

子どもの個人情報について、何歳から本人の同意で足りますか。

法律に年齢の定めは、いまのところありません。個人情報保護委員会のQ&A(Q1-62)は、一般的には12歳から15歳までの年齢以下の子どもについて、法定代理人等の同意が必要と考えられるとしています。令和8年の改正(令和8年法律第56号)で、16歳未満は同意や通知の相手が法定代理人になります。施行は公布から2年を超えない範囲で政令が定める日で、2026年10月時点では施行前です。

外国のAIサービスに症状や音声を送るとき、どんな同意が必要ですか。

要配慮個人情報を取得することへの同意(個人情報保護法20条2項)と、外国にある第三者への提供を認める同意(28条1項)の両方を考えます。後者を得るときは、提供先の外国の名称、その国の制度に関する情報、提供先が講じる措置を、あらかじめ本人に提供します(28条2項、施行規則17条2項)。外国かどうかは、サーバーの所在地ではなく提供先の事業者の所在国で判断します。

介護施設や医療機関に提供するサービスで、利用者の同意は誰が取りますか。

運営者が法人の委託を受けて取り扱う立場であれば、委託により個人データである要配慮個人情報の提供を受けるときは、運営者自身が取得の同意を取る必要はありません(20条2項8号、施行令9条2号)。本人への説明は、情報を取得する法人の側の役割です。同じサービスに個人向けのプランがあれば、その利用者には運営者が自ら同意を取ります。ポリシーは二つの立場を分けて書きます。

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